中山間地域にある水利施設のための遠隔監視システムがもたらす労力削減効果

要約

アクセスに困難性があり、かつ見回り頻度の高い水利施設では、通信機能を備えたトレイルカメラ等により水路の遠隔監視が可能になることで、通水阻害要因の除去を目的とした見回り頻度を大幅に削減できる。

  • キーワード : 水利施設、管理労力、山腹水路、遠隔監視
  • 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

通水期間中の水利施設の管理作業は適時に、適切に実施される必要があるが、とりわけ夜間や災害時の移動には危険が伴う。また、ポンプ等の機器を必要としない農業用水ではエネルギー消費が少ない反面、通水を阻害する要因を取り除くために細やかな見回りを行うなど、管理者の負担は大きい。加えて山腹水路を有する中山間地域等の地域では、落葉や木の枝等、通水を阻害する要因となり得るものが集積しやすい条件下にあり、円滑な通水を維持するために日々見回りが欠かせない。そこで本研究では、長大な山腹水路を有する中山間地域の土地改良区において遠隔監視システムを導入した場合、配水に関する労力削減効果がどの程度得られるのか、また管理作業のうちどの点に効果があるのかを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 三重県多気町での実証において構築した遠隔監視システムは、通信機能を備えたトレイルカメラ29台、既設および新設の水位計、流量計、雨量計等から構成される。また、webシステム「smanou.net」を用いることで、各機器に固有の遠隔監視機能にアクセスする必要があるところを、一元的に閲覧することができる(図1)。
  • 灌漑期に配水作業を担う土地改良区専従員2名について、遠隔監視システム導入前後の変化を作業日誌から整理すると、何らかの作業を行った日数は前年度と比較して20.7 %(25日)減少する(表1)。システム導入以前に最も実施日数の多かった、水路内のゴミ除去に関する作業日は83.0%(83日)少なく、水位調整およびゲート操作に関する作業である「巡視調整」については、14.3%(7日)減少する(図2)。
  • 専従員らは、主にトレイルカメラの機能を活用している。一方、施設管理責任者である職員は、webシステムを駆使し、配水状況の把握や問題発生箇所の特定、専従員らへの作業内容・優先順位の決定を行っている。職員はwebシステムを用いることにより、判断を迅速に行うことができ、かつ的確に作業指示を出すことができるようになる(表2)。
  • 遠隔監視システムの導入の効果は、従事日数の削減といった作業量の軽減にとどまらず、(1)現地対応の要否判断の的確化、(2)情報共有の利便性向上、(3)精神的負担の軽減といった、作業の質的な向上にも及ぶ(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 実証試験は、山腹水路を有する中山間地域の小規模土地改良区において実施されたものの、本遠隔監視システムは、地域を問わず水利施設へのアクセスに困難性を抱えている土地改良区において援用できる。
  • トレイルカメラはLTE通信により画像を送信しており、機器が接続可能なモバイル通信環境が監視地点に整備されている必要がある。
  • 遠隔監視システムを利用するためには、各作業者が端末から画像等を確認できることが前提となる。本実証においては、作業者からのスマートフォンやシステムの使い方に関する質問を土地改良区職員が細やかに対応したことで、円滑な導入につながったといえる。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(スマート農業技術の開発・実証プロジェクト)
  • 研究期間 : 2021~2022年度
  • 研究担当者 : 藤井清佳、芦田敏文、遠藤和子
  • 発表論文等 : 藤井ら(2023)農業農村工学会論文集、91:IV_17-IV_20