営農活動のための経済・環境影響評価ツール

要約

本ツールは、地域の営農活動における地域経済波及効果と温室効果ガス排出量を産業連関分析により同時に推計するWEBツールである。行政担当者が、農業分野において経済と環境のデカップリングを成立させる脱炭素施策を検討する際に活用できる。

  • キーワード : みどりの食料システム戦略、産業連関分析、GHG排出量、地域経済波及効果
  • 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領・域地域資源利用・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

持続可能な社会実現に向けて環境負荷の低減が求められている。農山漁村の基幹産業である農業分野において、脱炭素施策は地域経済への波及効果と温室効果ガス(以下、GHG)排出量の削減効果のバランスを定量的に評価し、地域社会が求めるGHG削減と地域活性化の両立が成り立つように展開することが必要である。しかし、これらの評価を行うには、専門的な知識や手法が必要となるため、行政担当者らが簡単に求めることはできない。
そこで、脱炭素施策を検討する農林水産や環境の行政担当者向けに、地域の営農活動にかかる地域経済波及効果とGHG排出量を同時に算定するWEBツールを開発、公開する。本ツールで得られた成果を用いて、地域のステークホルダーが脱炭素に資する地域農業の在り方を議論することをねらいとする。

成果の内容・特徴

  • 本ツールは、営農活動の経済・環境評価ツール画面上で操作を行う(図1)。ユーザーは、活動に要した品目ごとの経費や支出が行われた地域、作付け品目や使用する各種エネルギーの物量を対話形式に従って入力することで、当該経営の営農活動による地域経済波及効果とGHG排出量を同時に算定できる(図2)。
  • 本ツールは、農業経営へ投入する資材の需要を支えるための生産活動から誘発される生産額、付加価値額、雇用者数の総計を経済波及効果として算定する。市町村別・産業別の雇用者数比に基づいて当該県の経済波及効果を按分することから、地域の経済構造に即した経済波及効果を算定することができる(図3)。
  • 本ツールは、営農活動に関するデータを入力することにより、営農活動から直接排出されるGHGと資材の生産や流通等から間接排出されるGHGを算定することができ、GHG排出量やエネルギー消費量、生産誘発額は上位10番目までの部門をランキング形式で確認することができる。
  • 本ツールの活用例として、施設園芸における暖房を燃油焚の暖房機からヒートポンプへ転換する際の検討例を示す(図4)。既存研究を援用してヒートポンプの能力を考慮してエネルギー種別に使用量を推計し、その結果を本ツールに入力すると、ヒートポンプに切り替えた際の地域経済波及効果やGHG排出量が推計でき、現状の営農活動と比較できる。

成果の活用面・留意点

  • 地域のステークホルダーは、本ツールを用いて現状の営農活動と、脱炭素施策を導入した営農活動の経済・環境影響を評価・比較し、脱炭素に向けた施策を検討することができる。
  • 国立環境研究所が公表している「産業連関表による環境負荷原単位データブック(3EID)」を援用してGHG排出量を推計している。そのため、各部門のGHG排出量は各々の平均値であり、使用した原材料、諸材料の個々を考慮した評価は今後の課題である。本ツールで推計されるGHG排出量は、あくまでも目安である。
  • 貨幣による取引がないものは本ツールでは評価できない。例えば、水田の中干し期間の延長やバイオ炭の施用など、主に市場取引の枠外で行われる技術を反映した精緻な環境影響の分析は、今後の研究の進展を待つ必要がある。

具体的データ

図1 ツールのデータ入力,図2 WEBツールによる評価手順の骨子,図3 出力画面(一部),図4 ツール活用の一例

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(農林水産研究推進事業:脱炭素型農業実現のためのパイロット研究プロジェクト)
  • 研究期間 : 2021年度
  • 研究担当者 : 上田達己、渡邉真由美
  • 発表論文等 :
    • 上田(2022)農研機構研究報告、12:13-24
    • 上田、特願(2022年10月5日)