暗渠排水のライフサイクルコストを削減する3次元位置情報の取得・活用技術

要約

暗渠排水のライフサイクルコストを削減するため、暗渠排水管の位置情報を取得する技術である。暗渠位置情報を基に腐食した暗渠疎水材を新たに補充することで、暗渠機能を長寿命化できる。加えて、再整備の際に暗渠位置情報と既設暗渠管を再利用することで、整備コストを半減できる。

  • キーワード : 暗渠排水整備、情報化施工技術、3次元位置情報、維持管理、再整備
  • 担当 : 農村工学研究部門・農地基盤情報研究領域・農地整備グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

暗渠排水整備に有機質系の疎水材を使用した場合、疎水材の腐食によって暗渠排水機能が10年程度で低下する。そこで、新規の施工時において暗渠管の位置情報を取得する技術を開発し、その後の維持管理や再整備に活用することで、暗渠機能の長寿命化と再整備コストの削減を図る技術を開発する。
暗渠排水の整備は、主に暗渠施工の専用機械であるトレンチャを用いる(図1左)。施工時に暗渠管の高精度な位置情報を取得するため、既存のトレンチャに位置情報を取得する技術と、得られた位置情報をクラウド上に保存、編集等が可能なアプリケーションソフトを開発する。また、暗渠の位置情報を活用して、腐食した部分に新しい疎水材を補充することで暗渠排水機能を長寿命化する技術や、既設暗渠管を利用した再整備技術を開発することで、暗渠排水におけるライフサイクルコストの削減を図る。

成果の内容・特徴

  • 既存のトレンチャの掘削刃の直上に、RTK測位対応のGNSSレシーバーを設置し、スマートフォンを用いた測位システムを活用することで、暗渠排水の掘削底面の高精度な位置情報を取得できる(図1)。得られた位置情報は、基準としたレーザー測量との標高比較において平均3.3cmの差であり、実用的に十分な精度がある。
  • 位置情報の取得は、スマートフォンの簡易な操作で連続的に記録する暗渠施工管理アプリを用いて、トレンチャを操縦するオペレータが行う(図2)。位置情報は施工終了後にクラウド上にアップロードされ、暗渠管の施工間隔や標高や勾配を算出することができる。さらに、施工日や暗渠管の素材や管径、疎水材の種類等の諸元を別途入力し、出来形管理帳表を作成することができる。
  • 施工時の暗渠位置情報を用いて、施工後の経年劣化によって腐食した暗渠疎水材を簡易に補充することができる。施工時に取得した暗渠位置情報をトラクタのガイダンスにデータ移行し、モミガラ等を地中に投入する補助暗渠施工機で既設暗渠の直上を走行することで、新たな疎水材を的確に補充することができる(図3)。既設暗渠管との左右方向の差異は平均3.5cmで、深さは地下15~45cmの範囲に疎水材が補充され、営農レベルで暗渠排水機能の長寿命化を実現できる。
  • 再整備の際に施工時の暗渠位置情報を活用することで、ドレーンリフレッシャー工法(既設暗渠管を再利用して、疎水材の再充填と暗渠水閘の部分的な補修で暗渠排水の再整備を行う工法)を効率的に適用でき、再整備費を約1/2に削減することが可能である(図4)。ドレーンリフレッシャー工法では、暗渠管の埋設位置を確認しながら深さ100cm程度まで疎水材の再充填が可能であり、左右方向の差異にもスムーズに対応できる平行リンクによって既存暗渠管の直上を追従して施工することができる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 農業農村整備事業に係る国や県、市町村の行政職員、土地改良区、農業土木コンサルタント会社、農家。
  • 普及予定地域:暗渠排水工における情報化施工技術に取り組む事業地区。
  • その他 : 国営農用地再編整備事業(2023~2027年)で実施される情報化施工において、暗渠施工管理アプリが活用される予定。

具体的データ

図1 暗渠排水の位置情報取得技術と位置情報の精度,図2 暗渠施工管理アプリケーションソフトの操作画面,図3 営農による暗渠位置情報を活用した暗渠機能の長寿命化技術,図4 暗渠位置情報を活用した低コスト再整備工法(ドレーンリフレッシャー工法)

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(国際競争力強化技術開発プロジェクト:革新的スマート農業技術開発)
  • 研究期間 : 2019~2023年度
  • 研究担当者 : 若杉晃介、松本宜大、宮本輝仁、小野寺恒雄((株)パディ研究所)
  • 発表論文等 :
    • 若杉(2021)農業農村工学会誌、89(10):3-6
    • 小野寺、若杉「暗渠用籾殻充填装置」特許第7010434号(2019年10月10日)