ゴミが詰まりやすい開水路に適用可能な袋体を用いた水田のICT水管理機器

要約

袋体の膨張・収縮により水田の取水・止水を制御する開閉機構を持つことにより、ゴミが混入しやすい開水路においても安定動作が可能なICT水管理機器である。異物が混入した際にも袋体が隙間なく膨らむことにより通水断面が塞がり、ほぼ水漏れなく止水することができる。

  • キーワード : 水田の水管理、開水路、ICT、ゴミ詰まり、省力化
  • 担当 : 農村工学研究部門・農地基盤情報研究領域・農地整備グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

近年、ICTを活用し、水田の水位を遠隔監視したり、給水口を遠隔操作したりできる水管理作業の省力化技術(以下、ICT水管理機器)が開発され、普及が進んでいる。こうした技術は用水路の一種であるパイプライン水路で先行し、水管理作業の省力効果が実証されている。一方、国内で7割を占める開水路ではICT水管理機器の適用が遅れている。その理由として、水面が大気に接する開水路では用水の流下過程において異物が混入しICT水管理機器に用いられる堰板状の開閉機構で漏水等の障害が発生しやすいこと、多様な形状を有する開水路の給水口へのICT水管理機器の設置費用が高額となることが挙げられる。先行研究では、開水路でのICT水管理機器の実証試験において異物混入が頻発し、異物の除去作業や現地の見回りが増え、水管理作業の省力効果が損なわれた事例も報告されている。
そこで、開水路地区において簡易に設置可能で、異物による開閉障害の生じにくい袋体を用いた給水口の開閉機構を持つICT水管理機器を開発する。

成果の内容・特徴

  • ICT水管理機器は、袋体を用いた開閉機構とその制御装置、水位センサー、ソーラーパネル、バッテリーによって構成される(図1)。スマートフォンからアプリケーションを操作し、サーバー、通信中継機を通じて遠隔での水位の確認や、給水口の開閉操作の制御ができる。
  • 袋体を用いた開閉機構は、塩ビ管と塩ビ管内部上方に固定された袋体によって構成される (図2)。制御装置を通じて袋体を収縮・膨張させることで給水・止水の制御を行う。既存の給水口や塩ビ管に市販の継ぎ手等を用いて接続することで簡易に、低コストで設置することができる。
  • 実験水路において異物が混入した条件で、既存の堰板・弁の給水口と共に袋体を用いた開閉機構の止水時の漏水量を測定した結果、実験水路の水位が50cmの高さまでの設定において、従来の給水口は水位に応じ漏水量が増えるのに比して、袋体を用いた開閉機構ではいずれの水位においても漏水量を抑えることができる(図3)。
  • 本ICT水管理機器は、止水動作時に袋体の空気圧が一定値を超えると自動で給気を停止する。既存のICT水管理機器に採用されている堰板などの開閉機構では異物が挟まると通水断面に隙間が生じるのに対し、袋体による開閉機構は異物混入時も異物の周囲を隙間なく覆い通水断面を塞ぐことができ、安定して止水することができる。
  • 図4は、ICT水管理機器のプロトタイプの通水試験を現地圃場において実施した結果である。止水時に漏水はなく給水時も水稲栽培に十分な用水を供給できることが確認されている。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 平地開水路地区において水稲栽培を行う農家や農業生産法人、農業団体。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 圃場整備済みの平地開水路の水稲栽培地区への数百台の導入が想定される。2023年10月時点で2県2農家において実証済み。
  • その他 : 取水口付近に除塵機を設ける等の対策を併せて行うと水管理労力の省力化が発揮しやすくなる。

具体的データ

図1 開水路に適用可能なICT水管理機器(プロトタイプ),図2 袋体を用いた開閉機構の概略図,図3 実験水路での異物混入条件での止水時の漏水,図4 現地圃場での給止水動作時の給水口の流量

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2019~2023年度
  • 研究担当者 : 新村麻実
  • 発表論文等 : 新村「給排水制御装置及び給排水制御システム」特開2022-084000(2022年6月6日)