ため池の事前放流を支援する「ため池水位管理情報システム」

要約

気象庁配信の降雨予測データと水位センサによる観測水位に基づいて、豪雨前に事前放流可能な水位を算定するシステムである。ため池管理者は算定された水位に基づいて豪雨前に事前放流を行うことで、ため池の洪水調節機能を強化できる。

  • キーワード : ため池、事前放流、洪水調節機能、降雨予測データ、観測水位
  • 担当 : 農村工学研究部門・農地基盤情報研究領域・地域防災グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

河川流域全体のあらゆる関係者が協働し、流域全体で水害を軽減させる取り組みである「流域治水プロジェクト」では、ため池は流域内で雨水を貯留する施設として、その活用が進められている。流域治水においてため池の洪水調節機能を強化するためには、ため池に流入する雨水を貯留する「空き容量」を豪雨の前に設ける必要がある。
しかし、ため池はかんがいのための施設であり、かんがい期間中に豪雨前の事前放流により「空き容量」を設ける場合には、かんがいに支障を来さないよう豪雨による貯水量の回復がその前提となる。
そこで、観測水位・雨量の可視化とともに、事前放流後の豪雨で回復する放流後の水位を推定し、かんがい用水の確保と両立する事前放流を支援する「ため池水位管理情報システム」を開発する。

成果の内容・特徴

  • 「ため池水位管理情報システム」は用水管理の支援のために、個々のため池において「事前放流可能水位」(事前放流後の豪雨によって、かんがいに必要な貯水量まで回復可能と推定される放流後の水位)を算定するとともに、観測水位・雨量を時系列のグラフで表示する(図1)。
  • 「事前放流可能水位」は気象庁配信のアンサンブル降雨予測データ「日本域GPVデータ(高解像度)」(51通りの11日先までの雨量予測値)を用いて算定する。「事前放流可能水位」の算定にあたっては、まず放流終了時点(1~3日先に設定)から空き容量の回復を見込む時点(4~11日先に設定)までの雨量による「回復貯水量」(降雨による貯水の増加量)を求める。次に、当該ため池の豪雨による回復後の水位である「目標水位」に対応した「目標貯水量」から「回復貯水量」を差し引いた貯水量を求め、この貯水量に対する水位を「事前放流可能水位」とする。また、現在の水位との水位差を求める(図2)。
  • ため池管理者は、「事前放流可能水位」の情報に基づいて豪雨前に事前放流を行い、かんがいに必要な貯水の確保と両立させた上でため池に空き容量を設けることで、ため池の洪水調節機能を強化できる。事前放流後の水位は、「放流下限水位」(雨量が予測を下回り、空き容量分の貯水が回復しなかった場合においても、かんがい用水が確保できる水位として設定)を下回らない水位とする(図3)。なお、「放流下限水位」は、過去の観測水位・雨量の時系列データから把握できるかんがいに使用しない貯水量とため池関係者の経験に基づいて設定する。
  • 回復貯水量の推定式は、ため池ごとに水位・雨量観測データに基づいて一連降雨時の雨量と回復貯水量を集計し、両者の間で回帰式(一次式)を求めることにより作成できる(図4)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 農業用ため池を所管する行政部局、ため池管理者、および地元自治体。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数:洪水調節に向けた事前放流を実施する水位計等の監視機器を導入かつ観測データが蓄積されたため池
  • その他 : 流域からの降雨流出を貯水するため池において適用できる(河川から取水した用水を主水源とするため池は適用対象外)。

具体的データ

図1 「ため池水位管理情報システム」の概要,図2 事前放流可能水位の計算アルゴリズム,図3 事前放流の流れ,図4 回復貯水量の推定式の作成事例

その他

  • 予算区分 : 交付金、PRISM
  • 研究期間 : 2021~2023年度
  • 研究担当者 : 吉迫宏、松田周、李相潤、小嶋創、石津直彦(ベジタリア(株))、大嶋彈(ベジタリア(株))
  • 発表論文等 : 吉迫ら、特願(2023年10月25日)