全国で適用可能なため池のベントナイトシート工法設計・施工マニュアル

要約

ため池の改修工法であるベントナイトシート工法の設計・施工マニュアルである。ベントナイト系遮水シートの敷設位置を安定計算により決定することができ、施工方法および維持管理方法を基準化しており、全国で適用可能なマニュアルである。

  • キーワード : ため池、ベントナイトシート工法、設計、施工、維持管理
  • 担当 : 農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設整備グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

防災重点農業用ため池に係る防災工事等の推進に関する特別措置法の施行により、全国でため池改修工事が推進されている。従来、改修工事では押さえ盛土工法や前刃金土工法が採用されているが、必要となる良質な土質材料の調達が困難となっている。このため、代替工法として、ベントナイト系遮水シートを堤体内に敷設するベントナイトシート工法(以下、本工法)の採用が増加している。しかしながら、ため池の地区ごとに膨大な時間をかけて設計・施工方法を検討している状況であり、統一的なマニュアルの整備が求められている。
そこで、本研究では、既往の施工事例を収集するとともに、実験による本工法の安全性を評価し、設計方法および施工方法、維持管理方法等を基準化して、全国で適用可能なため池ベントナイトシート工法設計・施工マニュアル(以下、本マニュアル)を作成する。

成果の内容・特徴

  • 本マニュアルは、堤体内にベントナイト系遮水シートを敷設することにより堤体の安定性を向上させる工法(図1)に関するものであり、共通編、設計編、施工編で構成されている(図2)。共通編では、適用範囲と用語の説明が記載されており、本マニュアルは、堤高10m以下のため池のうちレベル1地震動を対象とするため池改修工事に適用することができる。
  • 設計編では、ベントナイトシート系遮水シートの設置位置として、根入れ長さ、堤頂部の位置、シートの敷設勾配と段切り、必要土被り、構造物や地山との接続方法等について規定している。ベントナイト系遮水シートの上流側の土被り厚(覆土の厚さ)は、レベル1地震動に対する円形すべり面スライス法による安定計算とシート面を境界としたすべり安定計算(図3)ならびに、水位急降下時の覆土の浮上に対する安全計算を実施して決定する。
  • 施工編では、施工手順を示すとともに、ベントナイト系遮水シートを敷設する基盤の整形方法や湧水対策・排水処理、搬入および運搬、保管方法、敷設方法、構造物との接続部、端部処理、覆土の施工について、施工時の写真や図により詳細に記載している。
  • 施工編に添付されている、施工管理基準に関するチェックシートおよび出来形管理基準を用いることで、適切に本工法を施工できる。
  • 施工後の維持管理において、堤頂部の沈下量を計測することや堤体に観測孔を設置し堤体内の水位を計測することで、長期的な堤体の安定性をモニタリングすることを明記している(図4)。
  • 設計および施工に関して、土地改良事業設計指針「ため池整備」等、全国の基準書に基づき作成しており、全国の自治体で利用可能である。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 地方自治体のため池担当者およびため池設計・工事に携わる民間会社。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : ため池防災工事を計画する地域。
  • その他 : 使用先が地方自治体職員、ため池の設計・工事に携わる民間会社に限定されていることから、SOPではなく、マニュアルを農研機構のHPで公開する。なお、兵庫県のHPにおいて「兵庫県ため池ベントナイトシート工法設計・施工マニュアル」が公開されているが、兵庫県で規定された基準に基づくマニュアルであり、適用範囲は兵庫県内のため池のみである。

具体的データ

図1 ため池のベントナイトシート工法の概要,図2 ため池のベントナイトシート工法設計・施工マニュアルの構成,図3 覆土の円形すべりとシートに沿ったすべりの安定計算,図4 ため池のベントナイトシート工法の維持管理方法

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:ため池の適正な維持管理に向けた機能診断及び補修・補強評価技術の開発)
  • 研究期間 : 2021~2023年度
  • 研究担当者 : 泉明良、大山俊一、寺家谷勇希、田頭秀和、堀俊和、中嶋勇、澤田豊(神戸大)、徳村秀一(兵庫県)、小田哲也(兵庫県)、野村純数(兵庫県)
  • 発表論文等 :