水路の摩耗調査を省力化する型取りゲージ画像の解析プログラム

要約

型取りゲージを用いて水路の摩耗量や表面の凹凸状態を測定する手法における解析作業を自動化する解析プログラムである。従来は1測点あたり約30分要していた解析時間が、本プログラムを用いることでほぼ不要になることに加え、解析作業において発生する人為的誤差を排除できる。

  • キーワード : 摩耗、粗度、画像解析、型取りゲージ、水路
  • 担当 : 農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設保全グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

コンクリート水路の摩耗が進行すると、表面の凹凸が大きくなり通水性能が低下する、鉄筋までのかぶりが小さくなり耐久性が低下する等の不具合が生じる可能性がある。このような不具合を早期に発見し、適時適切な対策を検討するためには、摩耗状態の継続的なモニタリングが重要である。
農研機構では、型取りゲージを用いてコンクリート水路の摩耗状態を安価かつ定量的に測定できる手法を提案しているが、解析にかかる労力が大きいことが課題であった。そこで、本手法における労力の削減を目的に、解析作業を自動化する画像解析プログラムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 摩耗量の測定原理を図1に示す。摩耗量の測定では、まず基準となる標点(ステンレス製アンカー等)を2つ設置する。2つの標点頂部を結ぶ線を基準線として、基準線から水路表面までの平均的な距離(以下、平均距離)を測定する。平均距離を経年的に測定することで、その差分を摩耗量として求めることができる。
  • 型取りゲージを用いた摩耗量の測定では、図2左写真のように、あらかじめ設置した2つの標点の中心を通るように、型取りゲージを水路表面に対して垂直に押し当て、型取りゲージに水路表面の凹凸形状を写し取る。その後、凹凸形状を写し取った型取りゲージをデジタルカメラ等によって撮影し、その画像を解析することによって平均距離を計算する。
  • 画像解析の手順として、市販の画像解析ソフトを用いる従来手順では、型取りゲージの針先端の形状のトレースや基準線の設定は測定者が手動で行う必要があった(図2:上段)。開発した画像解析プログラムでは、専用の台座に載せて撮影した型取りゲージの画像を入力すれば、各種の補正が全自動で行われ、平均距離などの指標が計算・出力される(図2:下段)。従来の解析手順では1枚の画像を解析するのに約30分の時間を要していた一方で、本プログラムでは解析にかかる時間がほぼ不要である。
  • 本プログラムでは、解析が全自動で行われるため、解析作業における人為的誤差は発生しない。レーザー距離計による高精度な測定手法を基準とした本手法のばらつき(標準偏差)は0.10mm程度である。なお、本手法によって計算された平均距離はレーザー距離計よりもやや過小評価される傾向にあるが、摩耗量は「2時点の平均距離の差」によって求まるため、摩耗量への換算時にこの誤差は相殺される(図3)。
  • 本プログラムでは、摩耗量のモニタリングに必要な「平均距離」に加えて、表面の凹凸状態を表す指標である「算術平均粗さ(Ra)」や、通水性能の指標となる「粗度係数(推定値)」などの数値も計算・出力される。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 機能診断業務の発注元である行政部局、実務を請け負う建設コンサルタント会社、農業水利施設の維持管理を担う土地改良区。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 型取りゲージを用いて摩耗状態を測定する手法は、既に農林水産省のマニュアルに掲載されており、本プログラムはその解析部分を省力化する技術である。水路等の農業水利施設をはじめ、摩耗が問題となるコンクリート施設全般において活用することができる。
  • その他 : 本プログラムの実装に関して、現場作業における利便性や測定データの共有・蓄積の観点から、Webアプリ形式での運用を想定している。

具体的データ

図1 摩耗量の測定原理,図2 型取りゲージを用いた摩耗測定の手順(上段:従来、下段:本プログラムによる解析),図3 レーザー距離計を基準とした本手法のばらつき

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2021~2023年度
  • 研究担当者 : 金森拓也、川邉翔平、森充広、木村優世
  • 発表論文等 :
    • 金森ら(2023)コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集、23:313-318
    • 木村ら(2023)農業農村工学会誌、91(11):33-36
    • 金森ら(2022)職務作成プログラム「型どりゲージを用いた摩耗量計測のための画像解析プログラム」、機構-Q65