鎮圧により漏水対策を実施した乾田直播栽培水田からの栄養塩負荷削減効果

要約

乾田直播栽培は代かき・田植えを実施しないため濁水排出を抑制する効果がある。鎮圧による漏水対策を実施した乾田直播水田は、代かき時の表面排水抑制による代かき濁水の排水抑制対策を実施した移植水田と同等、またはそれ以上の、栄養塩の地表排水負荷の削減効果を有する。

  • キーワード : 乾田直播、栄養塩、負荷削減、代かき
  • 担当 : 農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設保全グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

農地から流出する汚濁物質を削減することは重要な課題である。代かきをしない乾田直播栽培では、代かきに伴う水田からの濁水や栄養塩の環境への負荷が抑えられると考えられる。また、乾田直播栽培は育苗の必要がなく、省力的な栽培法であるため、労働力不足を補いながら水質負荷削減にもつながる有効な栽培法として期待される。
そこで、水田の用水負荷と地表排水負荷を比較して、振動ローラ式の鎮圧による漏水防止対策を実施した乾田直播栽培の栄養塩削減対策としての効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本成果では、乾田直播水田と移植水田(代かき濁水の流出抑制型・対照区)の2圃場を対象とした用水・表面排水に伴う全窒素・全リン負荷の調査結果を比較する(図1、表1)。移植水田では代かき時に高濁度(9,320FTU)の濁水発生がみられる(図2b、図2d)。乾田直播水田では、移植水田で田植え直前に実施する代かきを実施しないため、入水時に水田内での濁度の大きな上昇がみられず(図2a、図2c)、栽培初期における濁水流出の抑制につながる。
  • 乾田直播栽培水田での入水時期、移植水田での入水~代かき~田植えの時期において、全窒素、全リンそれぞれの、地表排水負荷と用水負荷の差を比較すると(図3a)、乾田直播水田における差は、代かき濁水の流出抑制型の水管理であった移植水田と同等である。
  • 灌漑期間を通じて地表排水負荷と用水負荷の差を比較すると(図3b)、全窒素に対しては乾田直播栽培水田の負荷削減効果が高く、全リンに対しては乾田直播水田と移植栽培水田とで大きな違いはみられない。乾田直播水田による全窒素・全リンに対する水田からの負荷削減効果は、代かき濁水の発生抑制対策を実施した移植水田と同等以上である。用水により水田に供給された全窒素・全リンの、水田を経ることによる負荷削減率を算出すると、乾田直播水田では全窒素76%・全リン6.3%、代かき濁水の発生抑制対策を実施した移植水田では全窒素58%・全リン6.7%である。
  • 乾田直播栽培は、栽培初期における全窒素に対する水田からの地表排水負荷を削減する対策として有効である。乾田直播栽培は省力的な栽培法であるため、水田における省力的な水質負荷削減対策として期待される。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 環境保全対策事業者、普及指導機関、コメ生産者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 稲作地域全般。
  • その他 : 本調査結果は一調査圃場における結果である点に注意が必要である。乾田直播栽培では田植え前に行われる代かきを行わないため縦浸透抑制対策が必要である。適切な漏水対策を施すことで縦浸透にともなう地下への水質負荷物質の移動を抑制可能である。本調査で使用した漏水対策である振動ローラによる鎮圧は「乾田直播栽培体系標準作業手順書 ―振動ローラ式乾田直播― [九州地方版](農研機構SOP)」を参考されたい。

具体的データ

図1 調査圃場と調査の概要,表1 作付け概要と栽培スケジュール(2021年),図2 作付け期初期の用水・地表排水の流量と濁度の変化,図3 用水・地表排水負荷

その他

  • 予算区分 : 交付金、民間資金等(資金提供型共同研究)
  • 研究期間 : 2019~2023年度
  • 研究担当者 : 濵田康治、中野恵子、高橋仁康、大段秀記、渡邊修一、永友功一((株)日水コン)
  • 発表論文等 : 濵田ら(2023)農業農村工学会誌、91(12):23-26