厳寒期でも安定した温室暖房が可能な地下水熱源ヒートポンプ

要約

施設園芸の暖房に使われている燃焼式暖房機を電気式ヒートポンプに代替するための手法である。地下水熱源ヒートポンプは、年間を通して温度変化の少ない地下水を熱源とするため、大気を熱源とする空気熱源ヒートポンプよりも加温装置として安定性が高く、エネルギー消費効率も高い。

  • キーワード : 暖房、CO2排出削減、再生可能エネルギー、みどりの食料システム戦略、成績係数
  • 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

施設園芸の脱炭素化を進める上で、燃油燃焼方式の暖房機から電気式ヒートポンプへ代替することが最も有望な技術であるが、その普及が進まない要因として、空気熱源方式が主流となっていることがある。空気熱源方式は無尽蔵といってもよい大気から採熱できるところに長所がある一方、外気温が低下すると空気中に含まれる水蒸気が熱交換器に霜として凝結するという短所がある。熱交換器に霜が付着すると空気の流れが阻害されるため、暖房を止めて除霜運転(デフロスト)をして熱交換器に付着した霜を解かさなければならず、その間、暖房運転が停止するため暖房装置としての機能とエネルギー消費効率が低下する。一方、地中熱源方式のヒートポンプは、地中や地下水など温度変化が少ない熱源から採熱できるところに長所があり、その熱源は外気温よりも温度が高いため、空気熱源方式のようなデフロストが必要なく、加温装置としての性能やエネルギー消費効率が高い。しかし、従来の地中熱源方式のヒートポンプの仕組みは複雑で、機器費用や工事費用が高価であることが短所であり、農業分野では普及していない。
本研究では、農業の中で最も多く化石燃料を消費している施設園芸において、低コストかつ高効率な地下水熱源ヒートポンプを研究開発することにより、脱炭素化に向けた基盤技術を構築する。

成果の内容・特徴

  • 新たに開発した地下水熱源ヒートポンプは、従来のオープンループ方式の地下水熱源ヒートポンプに類似するが、室外機、室内機、貯水タンクに浸水された熱交換器で構成され、既存のものよりもシステム構成を簡略化している(図1)。熱交換器を設置した貯水タンクでは、貯水した地下水の温度が設定温度よりも低くなると、地下水揚水ポンプを稼働させて給水し、設定温度になると揚水ポンプを停止させるようにし、有限な資源である地下水を過剰に汲み上げないようにしつつ、熱交換器用タンクの水温を制御している(図2)。
  • 2020年2月7日8時~2月9日8時の外気の日最低気温は8日の明け方で-1.4°C、9日の明け方で-2.0°Cであるが、地下水熱源ヒートポンプはデフロストのように暖房機能が停止するようなことはなく、外気が氷点下の条件でも室内気温の変動が少ない(図3(上))。ヒートポンプのエネルギー消費効率を表す指標として成績係数(Coefficient Of Performance:COP)があるが、地下水熱源ヒートポンプは外気温が氷点下の条件でもCOP 5.0を上回る結果が得られている。これは1.0 kWの電力エネルギーから5倍の5.0kWの熱エネルギーが得られたことを示している(図3(下))。
  • 従来の地下水熱源ヒートポンプには、機器本体の中に小型で熱交換効率の高いプレート型熱交換器が用いられており、無機塩類や有機鉄等を含む地下水は流路を閉塞する危険があるため、直接は通水できなかったが、本技術では熱交換器を機器本体から取り出し、別置きの貯水タンクの中に浸漬し、地下水と直接、熱交換できるように改良している。この熱交換器は、無機塩類や有機鉄等が付着しても、ユーザーが容易に清掃できるように設計している。また、地下水以外に、農業用水や集落排水等からも未利用熱を採熱でき、施設園芸以外の用途にも使うことができる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 施設園芸生産者・事業者、普及指導機関、農協、ヒートポンプ製造企業。
  • 普及予定地域・面積:全国で燃焼式暖房機を導入している園芸用施設の内、約12000ha。
  • その他 : 地下水熱源ヒートポンプの導入には、地下水の組み上げ規制が無い地域が対象となる。また、井戸の掘削費用と地下水の汲上ポンプが別途、必要である。

具体的データ

図1 従来の地下水熱源ヒートポンプ(上)と新開発の地下水熱源ヒートポンプ(下),図2 熱交換器用タンクの温度制御,図3 地下水熱源ヒートポンプ稼働時の温室内外の気温(上)と成績係数(COP)(下)

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:脱炭素型農業実現のためのパイロット研究プロジェクト)、経済産業省(再生可能エネルギー熱利用技術開発)
  • 研究期間 : 2018~2023年度
  • 研究担当者 : 石井雅久、森山英樹、土屋遼太、大橋雄太、三木昂史、奥島里美、高杉真司(ジオシステム(株))
  • 発表論文等 : 石井ら「ヒートポンプ装置」特許第7359361号(2020年4月2日)