要約
メタン発酵消化液の安定的な土中施用と施用後のアンモニア揮散抑制が可能で、低コストで導入できる、北海道用大型、本州用小型の2種類のスラリーインジェクターである。これまで消化液の利用が進まなかった、施肥量の多い畑作に対応でき、消化液の利用場面を広げることができる。
- キーワード : 再生可能エネルギー、メタン発酵、消化液、アンモニア揮散、散布車
- 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
農村地域の脱炭素化に貢献する技術として、メタン発酵が注目されている。農村地域でメタン発酵を成立させるためには、原料とほぼ同量生成される消化液を肥料として有効利用できることが必要条件である。消化液の肥料利用はこれまで各地で進められており、北海道では牧草地、北海道以外では水田での利用が中心であったが、メタン発酵を持続的な形で普及拡大するためには、これまで利用が限定的であった畑作において、より積極的に利用を進める必要がある。一般的に畑作物の施肥量は水稲や牧草などより多いが、従来の表面施用では肥料成分であるアンモニアの揮散率が高いため、畑作農家にとって営農的メリットが小さかった。そのため、安定的な土中施用と施用後のアンモニア揮散抑制が可能で、低コストで導入できる、スラリーインジェクター(以下、インジェクター)の開発が求められている。そこで、北海道用大型と本州用小型の2種類のインジェクターを開発する。
成果の内容・特徴
- 北海道用大型インジェクターは、北海道の畜産農家が一般的に所有しているスラリータンカーに、後付けするタイプのインジェクターである。トラクター後部の三点リンクに本機を接続し、その後方にスラリータンカーを配置して、トラクターとスラリータンカーで本機を挟む形で利用する。消化液を土中施用する部分は、土中に空洞を形成する刃(空洞形成刃)、消化液注入部、土壌を転圧するローラーから構成される(図1)。
- 北海道用大型インジェクターでは、空洞形成刃の種類を変え、土中に大きさや形状の異なる空間を形成することにより、消化液を施用量4~8t/10aの範囲で、深さ10~20cmの位置を中心に施用することができる(図2、施用量5t/10a条件)。また、インジェクターで消化液を土中施用した場合のアンモニア揮散量は、表面施用した場合に比べて格段に少ない(図3)。さらに、農家が所有する既存のスラリータンカーに設置することで低価格化が可能である。
- 本州用小型インジェクターは、農地の排水改良用全層心土破砕機「カットブレーカー」をベースとしたインジェクターである。機械上部に約400L容量のタンクを積載し、機械下部にV字刃の心土破砕刃を1~3連で配置して心土破砕した溝内にタンク内の消化液を注入できる構造を有する(図4)。
- 本州用小型インジェクターでは、土中5~50cm深さにおいて、破砕刃の後方に空間を作り、消化液を表面露出させずに施用することができる。土中に空間が作られることと、土壌の破砕により土壌が膨軟化して吸水性が高まることにより、施用量4~10t/10aの範囲で消化液を土中施用できる。すでに販売されているカットブレーカーにタンクと配管を追加した構造のため、一般的なインジェクターと比較して低価格であり、より低価格な散布車が求められる小規模メタン発酵施設にも導入可能である。また、カットブレーカーをベースにしているため、消化液を積載しなければ、排水改良用機械として利用することも可能である。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 市町村、メタン発酵事業者。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 普及予定地域は全国のメタン発酵施設が立地する農村地域。目標台数は販売開始後5年程度で50台。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:脱炭素型農業実現のためのパイロット研究プロジェクト)
- 研究期間 : 2021~2023年度
- 研究担当者 : 中村真人、折立文子、北川巌(農林水産省)、久保田幸、森昭憲、松崎守夫、亀山幸司、石倉究(道総研)、櫻井道彦(北海道)、坂本樹一朗(道総研)、池本秀樹(道総研)、藤田睦
- 発表論文等 :
- 中村ら(2022)農業農村工学会誌、90(9):681-685
- 北川ら、特願(2024年1月11日)
- 北川ら、特願(2024年1月11日)