家畜ふん炭に含まれる肥料成分の濃度と溶出性を調整するための畜種と炭化温度の選定

要約

家畜ふんを原料としたバイオ炭の製造において、原料の畜種と炭化温度によって含有肥料成分濃度と溶出性に与える影響を明らかにしたものである。低温で多量要素の溶出性が高いことや畜種により多く含まれる微量要素が異なることを考慮することで、適切に炭化温度や畜種を選択できる。

  • キーワード : バイオ炭、家畜ふん、炭化温度、微量要素、溶出性
  • 担当 : 農村工学研究部門・農地基盤情報研究領域・農地整備グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

近年、バイオ炭の農地施用は脱炭素化に向けた具体的な取り組みの一つとして期待が高まっている。家畜ふんを原料としてバイオ炭に加工をすると、ふん中に含まれる多量要素(リン酸やカリウム)や微量要素(銅や亜鉛)などの肥料成分の濃縮に加え、臭いの低減、減容化、雑草の種の死滅などの効果が得られる。また、家畜ふん由来バイオ炭(以下、家畜ふん炭)が肥料として広い範囲で継続的な投入がなされれば、炭素貯留量拡大への貢献が期待できる。
バイオ炭の性質は原料と製造時の炭化温度に依存することが知られている。しかし、家畜ふん炭について詳細に温度を区切り、資材中に含まれる肥料成分の濃度、溶出性を分析した例は少ない。また、家畜ふんに含まれる銅や亜鉛などの微量要素はこれまでの分析の報告では重金属としての評価に留まっている。微量要素は作物に必須の成分であり、欠乏すると生育が悪化し著しい収量低下を引き起こす場合があるため、多量要素とともに供給ができれば、家畜ふん炭は作物に対する総合的な肥料となりえる。温度条件と畜種によって成分量がどのように異なるのかを把握することで、供給したい成分に合わせた原料や炭化温度の選択が可能になり、効率的な成分の回収、効果的な家畜ふん炭の製造ができる。
そこで、高い養分供給が見込める家畜ふん炭の製造を目的として、家畜ふんの中でも肥料成分を多く含み、比較的含水率が低くバイオ炭に加工しやすい国内の採卵鶏、ブロイラー、豚のふんを対象に炭化温度と畜種が家畜ふん炭内の肥料成分濃度に与える影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 炭素含有率はブロイラーふん炭、豚ふん炭、採卵鶏ふん炭の順で多く含まれる。炭素含有率は300°Cで最も高く、炭化温度の上昇とともに減少する(図1(a))。炭素の安定性の指標である水素と有機態炭素のモル比(H/Corg)が0.4より低く、灰分を除いた場合のバイオ炭中の揮発分割合が80%以下の場合、特に長期的な炭素隔離が可能である。採卵鶏ふん炭は500°C、ブロイラーふん炭は600-800°C、豚ふん炭は700-800°Cで炭化した場合に特に長期的な炭素貯留が見込める(図1(b))。
  • 多量要素は採卵鶏、ブロイラー、豚の全ての畜種に同程度含まれており、炭化温度が高いほど濃度も高くなる。リンは500°C以上で作物に吸収されやすい形態の可溶性濃度が減少傾向を示し、徐々に土壌に溶け出す緩効性のク溶性形態になる(図2)。また、採卵鶏ふん炭はカルシウムを特に多く含んでおり、可溶性濃度は他の家畜ふん炭の4-6倍高い値を示す。
  • 微量要素は飼料の違いにより畜種ごとに多く含まれる成分が異なる。採卵鶏ふん炭は亜鉛、ブロイラーふん炭はマンガン、豚ふん炭は鉄と銅が多く含まれる。銅と亜鉛は、700°C以上の炭化で難溶化あるいは損失するため、作物に利用されやすい形態の可溶性濃度は400-600°Cで高くなる(図3(a)、(b))。
  • 土壌中の銅、亜鉛は管理基準が設けられており、農用地土壌汚染防止法から銅は125ppm(田に限る)、農用地における土壌中の重金属等の蓄積防止に係る管理基準から亜鉛は120ppmと定められている。ク溶性リン酸濃度を基準として家畜ふん炭をリン酸肥料の代替として利用した場合、銅、亜鉛の蓄積濃度は重金属の管理基準を大幅に下回り、重金属汚染は問題にならないと考えられる(表1)。
  • 含有濃度や溶出性の結果から、多量要素は400-500°C、微量要素は400-600°Cで炭化をすると養分が供給されやすい家畜ふん炭が製造できる。

成果の活用面・留意点

  • 炭素貯留効果を得るには製造過程や利用時の輸送においての炭素排出を低減することが重要である。特に家畜ふんは原料の水分の低減にエネルギーがかかるため、発酵乾燥・太陽熱乾燥などの自然エネルギーの活用が必要である。
  • カリウム、ナトリウムなどのアルカリ塩類が多いことなどから、家畜ふん炭を多量に施用した場合、塩害や高pHによる養分溶出抑制などの影響がでることが考えられる。そのため、家畜ふん炭の利用に際しては定期的な土壌診断を行う必要がある。
  • 高いpHを示すためpH矯正資材としての利用や、炭化時に温度に関わらず黒色になるため、降雪地域での融雪剤としての利用など多様な用途に用いることが可能である。

具体的データ

図1 異なる炭化温度条件の家畜ふん由来バイオ炭の炭素含有率と炭素安定性の指標,図2 異なる炭化温度条件の家畜ふん由来バイオ炭に含まれるリン濃度,図3 異なる炭化温度条件の家畜ふん由来バイオ炭に含まれる微量要素濃度,表1 ダイズ栽培時のリン酸代替肥料として家畜ふん由来バイオ炭(炭化温度400°C)を施用した場合の施用量および土中微量要素蓄積濃度の試算結果

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:農地土壌の炭素貯留能力を向上させるバイオ炭資材等の開発)
  • 研究期間 : 2021~2022年度
  • 研究担当者 : 久保田幸、亀山幸司、北川巌、岩田幸良
  • 発表論文等 :
    • 久保田ら(2023)農業農村工学会論文集、317:II_41-II_51
    • 亀山ら「炭化物肥料の製造方法及び炭化物肥料」特開2023-33872(2023年3月13日)