要約
基準点の水位と浸水危険範囲や土地利用別の浸水面積等の関係を予め整理した情報群である水位データベースを構築する手法である。基準点のリアルタイム水位が得られると、その水位に対応する被害推定情報をDBから瞬時に抽出でき、施設操作や避難判断の参考情報として活用できる。
- キーワード : 施設操作支援、HAV解析、内水氾濫、水位データベース、リアルタイム評価
- 担当 : 農村工学研究部門・水利工学研究領域・流域管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
台風や線状降水帯に伴う豪雨が予測される時には、農業分野においても地域防災に関わる関係職員が警戒態勢に入り、排水機場や水門等の施設操作にあたる。操作時は施設周辺の水位状況が判断材料になるが、農業用の施設は広域に分布しており、全体を瞬時に把握するのは困難である。特に低平地域では各地で内水氾濫が発生するリスクがあり、情報取得は関係者の見回り等に頼っているのが現状である。マンパワーが限られる農業部門の現状や現地作業に付随するリスク、施設操作判断の時間的余裕を考えると、地区内の状況を遠隔で簡易に把握する仕組みができれば有用である。そこで本研究は、任意に設定する基準点の水位と周辺の浸水被害状況の関係を事前に推定し、瞬時に参照可能な水位データベース(以下、DB)の構築を目的とする。併せて、一般に公開された詳細な標高情報等を活用して、リーズナブルに水位DBを構築する解析手法を提案する。
成果の内容・特徴
- 排水路のある地点の水位(H)と周辺の地盤標高から浸水面積(A)および氾濫量(V)を簡易に推定するHAV解析手法を提案する。準備データは、国土地理院より無償で提供されている詳細な数値標高モデル(5mDEM)および土地利用情報、GIS等を活用して任意に設定する基準点位置(排水路の水路底を想定)と基準点の集水域ポリゴン、DBを整理するための水深刻み情報である(図1)。
- 基準点の水位(標高値+水深)と、数値標高モデルから得た集水域内の全ピクセルの標高値を比較する。基準点水位より標高が低いピクセルを、排水が困難な浸水危険域に判定する。判定されたピクセルを土地利用別に集計し、ピクセル面積の合計値を土地利用別の浸水面積とする。また、基準点水位とピクセル標高値の差分を水深として、面積と水深の積で得られる氾濫量を計算する。結果は、設定した水深刻み毎に表形式で整理され、出力される。
- 浸水危険域の位置を示す地図情報を出力する。ある地区において浸水危険域の情報を数値解析モデルによる氾濫解析結果と比較すると、高い精度で一致しているエリアが確認できる(図2)。ただし、適用地区の勾配等の条件によって一致率が異なるため、留意が必要である。
- 上記の情報を合わせたものを水位DBとし、使用者が接続可能なPC・サーバー等に格納しておく。基準点の観測水位が得られると、その水位に対応する被害推定情報を瞬時に提示する辞書的な活用が可能であり、施設操作者に向けた支援システム等への実装が想定される(図3)。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、豪雨時に内水が集中して排水路等の溢水・氾濫が発生するリスクが高い低平地域への適用を想定している。適用先は、土地改良区や自治体などの水利施設操作に関係する者である。
- HAV解析は、標高情報が公開されている全地域に適用可能である。ただし、水位と被害推定情報の関係は一律に設定されるため、過大/過小評価になる可能性がある点には留意する。利用者の持つ地区のイメージとDB情報の差異を予め確認し、必要に応じてDBを修正することもできる。
- 浸水計算が可能な物理モデルを有する地区では、モデル出力を活用して同様のDBを構築することもできる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:AI 等の活用による利水と治水に対応した農業水利施設の遠隔監視・自動制御システムの開発)
- 研究期間 : 2021~2023年度
- 研究担当者 : 皆川裕樹、木村延明、福重雄大、相原星哉
- 発表論文等 : 皆川ら(2023)応用水文、35:19-28