ラジコン式草刈機による除草作業が可能な「三角畦畔」

要約

幅の狭い水田畦畔において、断面形状を台形から三角形にすることで斜面長を拡大し、ラジコン式草刈機が走行可能となる畦畔である。ラジコン式草刈機を用いることで、水田畦畔の除草に要する時間が、刈払機を用いた場合と比べて6割削減される。

  • キーワード : 水田畦畔、除草作業、省力化、ラジコン式草刈機
  • 担当 : 農村工学研究部門・農地基盤情報研究領域・農地整備グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

水田畦畔の除草は、景観を保持し、カメムシの増殖によるコメの食害や特定外来生物の繁殖を防ぐという観点から欠かせない作業である。しかし、従来の刈払機を用いた除草作業は、農家にとって肉体的・時間的に負担が大きく、その省力化が求められている。近年、ラジコン式草刈機が販売されるようになり、畦畔法面等の広い斜面では除草の省力化が図られるようになった。しかし、現在販売されている主なラジコン式草刈機は、車体幅が86~117cmと大きく、その小型化は容易でない。そのため、土地改良設計基準で、「上幅30cm,高さ30cm,法面勾配1:1程度の台形を標準とする」とされている水田畦畔(以下、基準畦畔と呼ぶ)は走行できない。そこで、断面を台形から三角形とすることで斜面幅を広げ、ラジコン式草刈機の走行を可能とする「三角畦畔」を提案する。

成果の内容・特徴

  • 三角畦畔の形状として、斜面の傾斜角は20°から30°を提案する(以下、三角畦畔20°および三角畦畔30°と呼ぶ)(図1)。高さは基準畦畔と同じ30cmとする。このとき、斜面幅は三角畦畔30°で60cm、三角畦畔20°で88cmとなり、基準畦畔の42cmと比べて長くなる。そのため、三角畦畔20°では一部のラジコン式草刈機が走行可能となる。また、除草の必要な面が2面になることで、刈刃が車体下方に付いている草刈機では、除草の際の往復回数を減らすことができる。
  • 三角畦畔の下面長は基準畦畔と比べて長くなる(図1)ため、潰れ地が増加する。一方で、断面形状を台形のまま、ラジコン式草刈機を走行させるために畦畔を拡張する場合に比べれば、潰れ地の増加は抑えられる。また、三角畦畔20°では歩行に支障はないが、三角畦畔30°では歩行に危険を覚える場合がある。
  • 造成した三角畦畔で、既存のラジコン式草刈機と刈払機による除草作業(図2a)を行うと、三角畦畔20°および三角畦畔30°のいずれでも、ラジコン式草刈機による除草の所要時間は、刈払機と比べて6割程度の削減となる(表1)。また、ラジコン式草刈機を用いることで、刈払機を用いる場合に比べて肉体的負担も著しく削減できる。
  • 三角畦畔の開発と合わせて、三角畦畔向けのラジコン式草刈機(図2b)も試作している。灌漑期には、畦畔斜面の水際の土壌硬度が低くなり(図3)、草刈機がはまってしまう可能性がある。そのため、試作機は、電動化による機体の軽量化と走行部へのクローラの採用により接地圧を低下させており、加えて三角畦畔の頂点を挟んで両斜面を走行することで、土壌硬度の高い畦畔の上方を走行可能としている。水面際の除草は、草刈部をアーム式とすることで対応している。走行部はヒンジにより角度を変えられるため、平地から三角畦畔、基準畦畔まで走行可能である。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 農地整備事業に関わる国や県、市町の行政職員、土地改良区、農業土木コンサルタント、農家。
  • 普及予定地域 : 全国の平野部の水田畦畔。
  • その他 : 三角畦畔を採用するか、従来の台形形状のまま畦畔の拡大を行うかは、歩行の頻度や、潰れ地の発生をどの程度まで許容できるかを踏まえて判断すべきである。基準畦畔から三角畦畔に形状を変更する工法は、今後の課題ではあるが、バックホー等を用いることが想定される。なお、現状では三角畦畔に対応した畔塗り機が存在しないため、横浸透を防ぐために畦畔内への遮水シートの施工も検討する必要がある。

具体的データ

図1 基準畦畔と三角畦畔の断面形状の比較,図2 (a)既存のラジコン式草刈機を用いた三角畦畔20°の除草作業、(b)試作中の三角畦畔向けラジコン式草刈り機,表1 三角畦畔における、既存のラジコン式草刈機と刈払機を用いた除草の所要時間の比較,図3 重粘土から成る三角畦畔30°の斜面の土壌硬度分布

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(農林水産研究の推進:有機農業推進のための深水管理による省力的な雑草抑制技術の開発)
  • 研究期間 : 2022~2024年度
  • 研究担当者 : 松本宜大、若杉晃介、堤俊雄(三陽機器株式会社)、張本超群(三陽機器株式会社)、鈴木翔
  • 発表論文等 : 若杉「畦畔及び畦畔の形成方法」特開2024-64421(2024年5月14日)