リン酸代替肥料としてのペレット鶏ふん炭の施用効果

要約

低温(400°C)で製造されたペレット状の鶏ふん炭は、黒ボク土でのコマツナ栽培において緩効性リン酸肥料、カリ肥料としての適性を有する。また、連用することによりリン肥料代替率の向上、土壌へのリン酸・亜鉛の補給が可能となる。

  • キーワード : 鶏ふん、リン肥料代替、低温炭化、ペレット
  • 担当 : 農村工学研究部門・農地基盤情報研究領域・農地整備グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

鶏ふんを炭化する場合、窒素の揮発による損失、リン酸の溶出性の低下などのデメリットもある一方で、臭気成分・有害微生物・抗生物質の分解・消失、減容化、肥料成分の濃縮等の資材利用上のメリットも多い。また、鶏ふんにはリン・カリウムといった多量要素に加え、亜鉛・銅などの微量要素が含まれるため、炭化によって炭素貯留と肥効を両立する資材の開発が期待できる。バイオ炭は粉状が多く、粉塵の発生や飛散による損失などのため機械施用には基本的に不向きである。そこで、機械施用を可能にするペレット鶏ふん炭を製造し、作物・土壌への施用効果を圃場連用試験により評価する。

成果の内容・特徴

  • ペレット加工されたブロイラー鶏ふんを炭化温度を変えて炭化した時、炭化温度の上昇による炭素の濃縮は進まず、リンの可溶性は低下し、カリウムの可溶性はわずかに増加する(表1)。炭素貯留資材やリン酸代替肥料としては炭化温度を高くするメリットは少ないため、エネルギー効率を考慮してペレット鶏ふん炭を製造する時の炭化温度は低温(400°C)とすることが望ましい。
  • 炭化温度400°Cで製造したペレット鶏ふん炭は緩効性リン酸肥料、カリ肥料として適性を有する。また、炭化温度600°Cで製造したペレット鶏ふん炭はカリ肥料として適性を有する。これらの成果は、リン酸と亜鉛が不足する黒ボク土圃場で3カ年にわたるコマツナ栽培試験(栽培前に100-200kg/10aの施用)より得られる(表1、図1)。炭化温度400°Cで製造したペレット鶏ふん炭を施用した区は対照区と比較して初年度のリン吸収量はわずかに低下するが(図1(a))、有意差なく生育する(図1(b))。また、過リン酸石灰に対するリン酸肥料代替率は2年目に増加する傾向が見られる。炭化温度600°Cで製造したペレット鶏ふん炭を施用した区は対照区よりもリン吸収量が減少し(図1(a))、コマツナの生育は抑制される(図1(b))。ペレット鶏ふん炭は連用をすることで、前作のリンの残効からリン肥料代替率が向上する。
  • ペレット鶏ふん炭は連用することによりリン酸と亜鉛が不足する黒ボク土圃場において、土壌の可給態リン酸と可溶性亜鉛を補給することができる(図2)。これらの成果は、2-5作分(1作あたり100-200kg/10aの施用)のペレット鶏ふん炭の連用施用により得られる。なお、リン酸・亜鉛の補給効果の炭化温度の違いによる有意差はない。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 炭素クレジットに興味を有する生産者や一般企業。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : ペレット鶏ふんを既に使用している地域。
  • その他 :
    • ペレット状の資材は微粉化することで炭と作物根との接触が増え、成分の可給化が促される。このため、ペレット鶏ふん炭を表面散布した後にロータリー耕耘等の耕起作業を念入りに行う必要がある。
    • J-クレジット制度に準じて炭素クレジットを算定するためには、ペレット鶏ふん炭の施用量や有機炭素含有率だけでなく、原料の運搬,鶏ふん炭の製造・運搬・施用等でのCO2排出量データが必要。

具体的データ

表1 ブロイラー鶏ふん(原料)及びブロイラー鶏ふん炭の成分含有量,図1 3カ年におけるコマツナの(a)リン吸収量および(b)乾物収量,図2 3カ年における土壌の(a)可給態リン酸含量および(b)可溶性亜鉛含量

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:農地土壌の炭素貯留能力を向上させるバイオ炭資材等の開発)
  • 研究期間 : 2021~2024年度
  • 研究担当者 : 亀山幸司、久保田幸、北川巌、岩田幸良
  • 発表論文等 :
    • 亀山ら(2022)農業農村工学会論文集、90:I_131-I_138
    • 亀山ら「炭化物肥料の製造方法及び炭化物肥料」特開2023-33872(2023年3月13日)
    • Kameyama K. et al. (2024) Biomass Conversion and Biorefinery
      doi.org/10.1007/s13399-024-06371-x
    • 脱炭素に向けた農林業環境研究コンソーシアム編(2025)「バイオ炭の農業利用事例とその活用ガイドブック」(2025年3月21日公表予定)