洪水吐ゲートを有する農業用ダムの事前放流による洪水調節効果の評価手法

要約

洪水吐ゲートを有する農業用ダムの事前放流の実施後、操作規程に則った放流操作の範疇で発揮しうる洪水調節効果を評価する手法である。Sダムに一定量放流型操作を適用した事例では、24時間200mmの降雨で洪水ピークを42.5%低減でき、350mmの降雨まで洪水調節効果が期待できる。

  • キーワード : 農業用ダム、事前放流、洪水吐ゲート、一定量放流型操作、流域治水
  • 担当 : 農村工学研究部門・水利工学研究領域・流域管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

流域治水の一環として、農業用ダムでの事前放流が実施されている。農業用ダムの約8割を占める洪水吐ゲートがないダムの事前放流による洪水調節効果は相当雨量(ダムの空き容量をダム集水面積で割った値)により推定できるが、洪水吐ゲートを有するダムの場合は、放流操作によって効果が異なる。従来の操作では、安全面を優先して流入量に相当する量を放流することが多いが、洪水調節効果を流域治水に最大限活用するためには、操作規程に則った操作の範疇で発揮しうるダム放流量ピークカット率(以下、ピークカット率)を明らかにする必要がある。本成果では、洪水吐ゲートを有する農業用ダムであるSダムを事例として、流入量がSダムに規定の洪水量(100m3/s)以上の時には洪水量を一定放流する操作を適用した場合に期待されるピークカット率を評価する手法を提示する。

成果の内容・特徴

  • 本成果は、治水協定に規定のダム空き容量を事前放流により確保した後、操作規程に則った放流操作の範疇で発揮しうるピークカット率を評価する手法である。Sダムの操作規程に適合する操作として、次の操作(以下、一定量放流型操作)を適用する(図1)。【操作①】貯水位が事前放流目標水位となるまで事前放流を行う。【操作②】流入量が洪水量以上となるまでは、流入量と等量の放流を行う。【操作③】流入量が洪水量以上、かつ貯水位が予備放流水位未満の場合には、洪水量での一定量の放流を行う。【操作④】貯水位が予備放流水位以上の場合には、流入量と等量の放流を行う。【操作⑤】流入量が洪水量未満に減少した後は、貯水位を予備放流水位まで回復させる。
  • ピークカット率の評価に用いる降雨条件は、6段階の24時間降雨量(150、200、250、300、350、400mm)および3種の降雨波形(前方集中型、中央集中型、後方集中型)である。
  • 一定量放流型操作によるピークカット率(図2)は、事前放流で確保した空き容量をちょうど使い切る降雨量で最大値を示し、それ以上に降雨量が増加すると減少する。Sダムでは、24時間雨量200mmで3降雨波形平均のピークカット率は最大値(42.5%)を示し、24時間雨量350mmまで3降雨波形平均で2.6%のピークカット率が得られると推定される。これは、安全面を優先した流入量相当の放流操作の場合(ピークカット率はほぼ0%)よりも高い効果である。
  • 降雨量を一定値とした場合、事前放流で確保するダム空き容量を増加させても、ピークカット率は前述(3.)の最大値が上限となる(図3)。一定量放流型操作の実施は、ダム空き容量が小さい条件下でのピークカットに有効である。
  • 評価に用いた全ての降雨条件で、操作⑤により貯水位が予備放流水位まで回復することが確認されたため、一定量放流型操作の適用が利水に及ぼす影響は小さい(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 洪水吐ゲートを有する農業用ダムで、貯水位が予備放流水位未満の場合の貯留操作に明確な規定がないダムにおいては、一定量放流型操作は、操作規程に相違せずに適用することができる。
  • 実際の操作への適用性については、放流量が急増することの安全性や、ダムごとの管理体制を考慮する必要がある。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金、SIP、民間資金等(資金提供型共同研究)
  • 研究期間 : 2021~2023年度
  • 研究担当者 : 相原星哉、吉田武郎、皆川裕樹、高田亜沙里、久保田富次郎
  • 発表論文等 : 相原ら(2024)農業農村工学会論文集、318:I_111-I_117