深層学習モデルに不定流の物理式を導入したPINN-SVEモデル

要約

AIの一つである深層学習(DNN)モデルに、開水路の不定流の物理式を組み込んだ水位予測モデルである。深層学習のみによる水位予測モデルと比較すると、流速、水位の予測の精度が30%以上向上する。

  • キーワード : 排水機場、深層学習、水位予測、Saint-Venant式、不定流解析
  • 担当 : 農村工学研究部門・水利工学研究領域・水利制御グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

排水機場等の操作員は、指標となる地点の水位をもとに操作を判断しており、降雨時に適切に操作を行うには数時間先の予測情報を得ることが重要である。このため、深層学習を活用した水位予測モデルがこれまで提案されてきた。しかし、深層学習による水位予測は、学習データとして入力する観測データの量が十分でないと予測精度が低くなる。さらに、深層学習モデルは観測データだけで将来の水位を予測するため、得られた水位が正しい現象なのか判断できないという問題もある。これらの課題は、十分な期間の観測データの蓄積がある排水機場に導入先が限られたり、操作員が予測結果を信用できなかったりするなど、深層学習による水位予測の社会実装において障害となる。
そこで、深層学習のネットワークモデルの内部に開水路の不定流の物理式を組込むことで、物理現象に則した水位予測が可能なモデルを構築する。

成果の内容・特徴

  • 開発するモデルは、AIの一つである深層学習(DNN)モデルに、開水路の不定流の物理式であるであるSaint-Venant式(図1中の右側)を離散化して計算するのではなく、直接組込んで計算を行う。具体的には、(x,t)の入力と(h,u)の出力の組合せによってネットワークの重み係数を調整し、推定値(ĥ,û)と境界条件等の正解値(h,u)との誤差を最小化するとともにSaint-Venant式を満たすように損失関数を最小化する計算を行っている。
  • 低平地の排水路(図2左)を対象としてモデルの検証を行う。豪雨時の実測値を収集することが困難なため、模擬豪雨と物理モデルによって算出される水位と流速を元に入力データとして事前学習を行い、入力データとは異なる地点における流速と水深を予測する。
  • 模擬豪雨は、対象地区における過去最大級に匹敵する約300mm/72hrの雨を現地の確率降雨分布に基づいて生成する。対象の排水路を7区間に分割し、両端と中央には境界条件等を入力し、残る4区間における予測結果を比較する(図2右)。物理モデルによる計算結果を正解値とし、PINN-SVEモデルと従来のDNNモデルによる予測結果と正解値との誤差等を評価する。
  • 100個の模擬豪雨の計算を行い、そのうちPINN-SVEの精度が相対的に高い結果を示す(図3)。深層学習のみによる従来のDNNモデルでは、流速、水位ともピークが再現できていないのに対し、PINN-SVEでは、ピークの高さ、時間とも良好に再現できている。流速の予測では、Nash-Sutcliffe係数(NSE)※で0.8以上の良好な結果が得られ、二乗平均平方根誤差(RMSE)で従来型のDNNよりも50~70%の改善を示す。水深の予測では、NSEで0.97以上の良好な結果が得られ、RMSEで従来型のDNNよりも30~70%改善する。
    ※Nash-Sutcliffe係数:ばらつきの大きさを考慮してモデルの精度を評価する指標で、その値が1に近いほどモデルの精度は良く、0.7以上でモデルの再現性が高いとされている。

成果の活用面・留意点

  • 予測対象とする現象が滑らかに変化する場合には予測精度が高いものの、急激に変化する場合には予測精度が低い。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)、SIP
  • 研究期間 : 2021~2024年度
  • 研究担当者 : 木村延明
  • 発表論文等 : 木村ら(2024)土木学会論文集、80:23-22011