要約
水路内に設置したヒートポンプシステムの熱交換器を介して、水温1.7°Cの流水中から採熱して暖房稼働させても、システムは停止することなく安定的に温熱を供給できる。また、夏季の冷房運転では、高いエネルギー消費効率で稼働し、冷熱を供給できる。
- キーワード : 流水熱、水熱源ヒートポンプ、農業用水路、エネルギー消費効率
- 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ヒートポンプ(以下、HP)システムを用いた開水路を流れる農業用水の熱利用は、流水熱利用と呼ばれている。これまで、流水熱に対しては、室内の実規模模型水路を利用した水熱源HPシステムによる基礎的な熱交換特性に関する評価に止まっている。実際の水路の水理条件や周辺環境は室内試験と異なり、流量の減少やそれに伴う水深の低下、氷点下近くまでの水温の低下などが生じる懸念がある。用水路の流水熱利用の普及を促進するためには、実際の水路において、HPシステムの稼働試験が必要である。
そこで、本研究では、農業用水路における流水熱HPシステムの運用技術の確立を目的として、栃木県那須塩原市内の用水路に隣接するイチゴを栽培する温室へ熱供給する現地稼働試験を通年で実施する(図1)。本研究によって、暖房時の室内試験では評価できなかった実際の農業用水路の流水条件下での熱利用状況や、冷房時のHPシステムの熱交換特性を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 栃木県那須塩原市内の用水路の中にシート状熱交換器を設置し、水路に隣接するイチゴを栽培する温室への熱供給試験を実施する(図1)。熱交換器の熱通過率(熱の取り出しやすさ)、ヒートポンプの熱交換量(採熱量)およびHPシステム全体のエネルギー消費効率(SCOP)を熱交換特性として評価する。
- 暖房時の熱交換量は2.79~2.99kWであり、熱交換量にHPシステムの消費電力を加算して、温室への供給熱量を近似的に試算すると、4.81~5.00kWとなり、HPのカタログ値(暖房時5kW)を満たす熱を供給している(図2)。また、冷房では、熱交換器における採熱のみでHPのカタログ値(冷房時4kW)を大きく超える熱交換量を示し、農業用水の流水熱は夏季の冷熱源としてより活用できることがわかる(図2)。
- 暖房時の熱通過率は、熱源温度が1.7~5.2°Cでは0.13~0.17kW/(°C・m2)を示し、熱源温度の上昇とともに高くなり、現場の水路でも既往室内試験と同程度の性能で採熱できる(図3)。一方、冷房時、熱源温度10.4~19.6°Cにおける熱通過率は0.23~0.27kW/(°C・m2)であり、熱源温度10°C付近では暖房時の熱通過率(0.22kW/(°C・m2))と同程度の熱通過率を示しており、冷房時でも熱の取り出しやすさは暖房時と大きく変わらない(図3)。
- 空気熱源HPでは、外気温が4°C以下になると、除霜運転により稼働を停止する。一方、本試験による流水を熱源にしたHPの場合、用水路に4°C以下の流水が供給され続け、熱交換器が完全に水没する条件下で採熱すると、暖房時のSCOPは2.4~2.9を示し(図4)、HPシステムは停止せず、暖房により5kWの熱を供給できる(図2)。冷房時におけるSCOPは5.4~6.0であり、暖房時に比べて高い値を示しており、流水熱は冷房利用に適している(図4)。
成果の活用面・留意点
- 今回の評価は暖房5.0kW(冷房4.0kW)の水熱源HPシステムによる結果であるため、HPの出力が大きい場合は水路の流水が凍結する懸念がある。また、熱交換器は完全水没していなければ、熱通過率や熱交換量、SCOPの低下が懸念されるため、水路の水位に留意する必要がある。
- 冬期の農業用水路の気温は氷点下になるものの、農業用水の水温は1.7°Cを示しており、用水路では、流水が凍結しないことが確認されている。本試験装置では、システム内を循環する熱媒を介して熱を輸送する仕組みであり、4°C以下の流水中から採熱する場合、システム内での熱媒の凍結が懸念されるため、熱媒にはプロピレングリコールなどの不凍液の使用が望ましい。
- 熱交換特性は熱源温度だけでなく、HPの負荷(室温設定温度)、熱交換器の種類などによって異なる。本研究の結果は、農業水路内に設置することを想定した硬質ポリエチレン性の熱交換器と組み合わせたHPを最大負荷で暖房運転させた場合のものである。そのため、銅製やステンレス製などの異なる材質による熱交換器を使用する場合や、HPの負荷を小さく設定する場合、本結果の熱交換特性とは値が異なることに留意する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(農林水産研究推進事業:脱炭素型農業実現のためのパイロット研究プロジェクト)
- 研究期間 : 2022~2024年度
- 研究担当者 : 三木昂史、石井雅久、土屋遼太、大橋雄太
- 発表論文等 : 三木ら(2025)農業農村工学会論文集、93:I_1-I_12