要約
集中型バイオガスプラントのメタン発酵残渣である消化液の畑作利用は、多頭化する酪農経営の家畜ふん尿処理の観点から大きな貢献となる。消化液の畑作利用の阻害要因として、各畑作物への散布適期が短期間に限定されることによる散布作業能力の制約や、散布作業コストを指摘できる。
- キーワード : 集中型バイオガスプラント、家畜ふん尿処理、消化液、畑地型酪農地域、散布作業
- 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
大規模酪農経営における飼養形態は多頭化の進行によりフリーストールが標準となっており、牛舎から排出されるスラリー状のふん尿処理はたい肥化が困難で、バイオガスプラント(以下、「BGプラント」)における処理が解決策とされる。酪農経営のさらなる多頭化の進行のなか、BGプラントから発生するメタン発酵消化液の有効利用のために、畑作における液肥利用の拡大が求められている。
そこで、複数の酪農経営から家畜ふん尿をメタン発酵の原料として受け入れる集中型BGプラントが存在し、酪農経営・畑作経営がほぼ同数存立する畑地型酪農地域(北海道A町)を対象に、BGプラントで生成される消化液の散布実態、とくに畑作における散布実態から、集中型BGプラントの消化液の畑作利用の効果とその阻害要因を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 対象地域では、地域内の全畑作経営のうち、BGプラント消化液の利用実績がある経営が29%を占め、消化液の畑作利用が一定程度普及している(2020年実績、以下同)。
- 対象地域のAプラントでは、生成される消化液(約4.1万t/年)のうち43%が畑作ほ場に散布されている。なお、消化液の畑作利用を作物別にみると、豆類、ビート、小麦収穫跡、小麦(馬鈴薯栽培跡が多い)、野菜類の順に利用実績が大きい。なお、畑作4品を構成し対象地域で一定の作付割合を占める馬鈴薯への利用実績はない(図1)。
- 消化液の畑作利用における単位農地面積当たり平均散布量(t/ha)実績は、酪農経営の主たる土地利用である牧草のそれを大きく上回る(表1)。
- 牧草収穫前の消化液散布は畜産経営に敬遠されるが、当該時期である一番草収穫前(5月)、二番草・三番草収穫前(8~9月)に畑作ほ場への散布が確認できる(図2)。
- 以上1.~4.から、BGプラントから生じる消化液の最終処理の観点、つまり対象地域における酪農経営の家畜ふん尿処理の観点から、消化液の畑作利用拡大は大きな貢献となる。
- 畑作経営の消化液利用メリットとして、消化液のもつ肥効特性(速効性)から、慣行栽培で基肥利用されている化学肥料の代替による肥料購入コストの削減が期待される。ただし、基肥利用のための消化液散布期間が各作物においてそれぞれ播種・植付前の短期間に限定されるため(図2)、消化液の畑作利用は、散布作業能力の制約を受ける。
- 対象地域では、BGプラントの利用組合が消化液散布車両を保有し、消化液の散布作業(表面散布方式)を全て受託実施しているため、消化液の利用にあたって、畑作経営側の散布作業負担は生じない。とくにビート・馬鈴薯・豆類の播種・植付作業が連続する春の農繁期においては、畑作経営が消化液の散布作業を自ら実施することは困難であるため、散布作業コストは、消化液の畑作利用の大きな阻害要因となる。
成果の活用面・留意点
- 集中型バイオガスプラントの消化液の畑作利用を検討する際に、作物別・散布時期別の消化液散布計画(散布面積および散布量)を策定するための参考情報として活用できる。
- 本成果情報の対象地域と異なり、地域内に畑作経営が存在しない酪農専業地域(草地型酪農地域)では、地域外への運搬コストが大きいことが想定され、消化液の畑作利用は困難である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(農林水産研究推進事業:脱炭素型農業実現のためのパイロット研究プロジェクト)
- 研究期間 : 2021~2024年度
- 研究担当者 : 芦田敏文、佐藤正衛、藤井清佳、藤田直聡、荻野暁史
- 発表論文等 : 芦田ら(2024)農業経営研究、62:19-24