流水熱源ヒートポンプを冬春いちご栽培の暖房として導入した際の経済性評価

要約

冬春いちご栽培農業者の温室に流水熱源ヒートポンプを導入し、暖房利用時の効果を算定すると、原油換算エネルギーやCO2は削減されるものの、暖房費削減効果はA重油や電気料金の単価に左右される。電気料金の単価を下げる等、農業者の負担を軽減する施策が必要である。

  • キーワード : みどりの食料システム戦略、ヒートポンプ、経済評価、暖房費、相対価格
  • 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

2021年に農林水産省が公表した「みどりの食料システム戦略」において、施設園芸では、2030年までに加温面積に占めるハイブリッド型園芸施設(ヒートポンプ等の燃油を使用しない設備と燃油焚暖房機の併用)等の割合を50%にし、2050年までに化石燃料を使用しない施設への完全移行を目指すとしている。ヒートポンプ(以下、HP)は高額な設備であるため、施設の暖房需要をすべて賄う規模では導入せず、一部暖房を賄うハイブリット型への転換が主流である。ハイブリッド型から施設園芸の脱炭素施策を進めることは、初期投資を抑えつつ燃油使用量を削減し、温室効果ガス(以下、GHG)削減に結び付くと期待されている。
本研究は、施設園芸の暖房への流水熱源HPの補助的な活用によるGHG排出量やエネルギー使用量、暖房費の変化を評価する。昨今のA重油価格や電気料金の変動・高騰は農業経営を圧迫していることから、暖房費削減効果は燃油価格と電気料金の変動を考慮する。

成果の内容・特徴

  • 本評価は、SCOP2.5、定格出力5kWの流水熱源HPの実証機(図1)を導入した農業者(以下、実証経営体)を対象とする。この農業者はいちご「とちあいか」を温室で栽培し、暖房に実証機と既存のA重油焚暖房機を併用する。暖房期間は2023年産の実績に基づき2022年12月より開始し、翌3月以降はほぼ暖房していない条件でHP導入を評価した結果、原油換算エネルギー使用量139L、CO2排出量は815kg-CO2削減される。一方、エネルギー調達価格はA重油の費用削減を電力料金の増加が上回るため、暖房費は9,290円の増加となる(表1)。
  • A重油や電気のエネルギー単価の変動により暖房費は増減し、A重油が高騰すればするほどHPによる暖房費削減率は大きくなるため暖房費削減効果が発揮される。例えば、A重油単価が90円/Lの時、電気単価が基本料金を含めて25円/kWhならば暖房費削減が見込まれるが、30円/kWhでは実証経営体の経営を圧迫する恐れがある。また、セーフティーネットが発動すると実証経営体の暖房費削減に結び付くものの、A重油単価が90円/L、電気単価30円/kWhでは2022年度の単価でセーフティーネットが発動しても暖房費削減には結び付かない(表2)。
  • 以上から、HP普及のためには電気料金の単価を圧縮する工夫や電気を対象としたセーフティーネットの整備といった支援が必要である。

成果の活用面・留意点

  • 現状の施策ではエネルギーコストに対するセーフティーネットはA重油、灯油、ガスにはあるが電力にはない。本評価結果を農業者の負担軽減に結び付く施策の検討材料として活用できる。
  • 本評価は栃木県那須塩原市にある面積11aの温室の補助暖房として実証機を利用した事例を対象としている。SCOPが高まると暖房効果も相対的に高まり、より少ない電力でA重油から代替できる。また、施設規模に適した出力のHPを導入することで暖房需要を賄う電力の割合は高まる。
  • いちごは暖房需要の比較的小さな作目である。HPの導入効果は暖房需要の大きさによって左右されることから、栽培地域、作目、作型を考慮した評価が必要である。
  • 本評価は暖房費のみに焦点を当てた限定的な評価である。HP導入が生産量に与える効果、農薬などといった資材の投入量削減効果等の把握が不十分である。総合的に経済性を評価し、HPの導入効果を確認する必要がある。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(農林水産研究推進事業:脱炭素型農業実現のためのパイロット研究プロジェクト)
  • 研究期間 : 2022~2024年度
  • 研究担当者 : 渡邉真由美、三木昂史、藤井清佳、木村健一郎、遠藤和子
  • 発表論文等 : 渡邉ら(2024)農業経営研究、62:33-28