通気性のある農業用被覆資材の保温性能評価手法

要約

通気性のある農業用被覆資材の保温性能を熱収支解析により明らかにする手法である。本手法を用いると、資材の通気伝熱係数とそれ以外の伝熱係数を分けて算出可能であり、資材開発時に、どの要素を改善すると保温性能の向上に効果的かが判断できる。

  • キーワード : 温室、暖房負荷、省エネルギー、長波放射、保温、通気伝熱
  • 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

施設園芸で利用されるエネルギーの大部分は、冬季の温室暖房によるものである。したがって、施設園芸分野で省エネや脱炭素化を実現するためには、暖房エネルギー消費量を削減することが重要である。温室の暖房負荷を減らす方法として、保温カーテンの利用がある。一般的に、保温カーテンは、1層で暖房負荷が約3割削減、2層で約5割削減につながることが知られており、省エネに重要な役割を果たしている。さらなる省エネ化のため、より保温性能の高いカーテン資材の開発が望まれるが、標準的な性能評価手法がないのが現状である。現在、利用されている保温カーテンの多くは、可動性を良くするため、フィルムや布が編込まれた形状をしており、通気性がある(図1)。これまで、通気性のない資材については、長波放射吸収率の値から熱貫流係数の推定が行われてきたが、長波放射吸収率は、通気によって生じる伝熱には無関係であるため、上述した手法により、カーテン資材の保温性能を評価することはできない。したがって、カーテンなどの通気性のある資材の保温性能を評価する手法の開発が、資材開発の加速化のために必要である。そこで本研究では、通気のある資材の通気伝熱係数(Wm-2°C-1)と通気以外の伝熱(放射伝熱および対流伝熱)係数(Wm-2°C-1)を、熱収支解析により算出し、資材の性能評価へ利用可能か検証する。

成果の内容・特徴

  • 本研究成果では、熱収支解析を用いて、カーテン資材の通気伝熱係数(kven)と通気以外の伝熱係数(k)を算出する。伝熱係数の単位はWm-2°C-1である。異なる資材間で、kkvenの値を比較することで、伝熱形態ごとに分けて、保温性能の優劣を判断することができる。kkvenを足したものをkallとする(式1)。

    kall=kven+k (式1)

    下記に具体的な測定手法を示す。
  • カーテン資材を図2の熱貫流係数測定装置内に展張する。本試験では、アルミ蒸着フィルムを含む資材(Screen_Al)と、ポリエステル製の資材(Screen_Poly)を供試する(図1)。測定装置内でトレーサーガス法を用いて、供試資材の通気率(m3m-2h-1)を算出する(ΔT:10°C)。通気率は、Screen_Alで4.2m3m-2h-1、Screen_Polyで3.8m3m-2h-1である(図3)。
  • 熱貫流係数測定装置内の温度を、加熱室10°C、冷却室0°C、冷却板-20°Cになるよう制御する。冷却板は、冬季夜間に発生する放射冷却の再現に寄与している。装置内の温度が安定したら、熱収支解析を行う。装置内では下記の熱収支式が成り立つ。

    Qh=Qw+Qt (式2)

    Qhはヒーター発熱量(W)、Qwは加熱室壁面を通過する伝熱量(W)、Qtは保温カーテンを通過する伝熱量(W)を示す(図2)。式2は、説明の都合上一部簡略化している。Qt以外を実測し、式2に代入することでQtを算出する。そして、Qtを資材面積(m2A)および室間の気温差(Tin-Tout)で割りkallを算出する(式3)。

    kall=Qt/((A×(Tin-Tout))) (式3)

  • 加熱室と冷却室のエンタルピー差、気温差およびカーテンを通過する通気量を用いて、kvenを算出する(式4)。

    kven=((VR/SV)×(Hin-Hout)/(Tin-Tout))/3600 (式4)

    VRはカーテン通気率(m3m-2h-1)を示す。SVは空気の比容積(m3kg-1)を示す。Hin-Houtは、室間のエンタルピー差(Jkg-1)を示す。kallからkvenを差し引き、kを算出する(式1)。
  • Screen_AlおよびScreen_Polyのkvenは1.5および1.3Wm-2°C-1である(図4)。Screen_AlおよびScreen_Polyのkは4.1および6.0Wm-2°C-1である(図4)。Screen_PolyのkvenがScreen_Alよりも小さいため、Screen_Polyの方が、隙間が少なく、フィルムの編込みが優れていると判断できる。一方で、Screen_AlのkがScreen_Polyよりも小さいため、フィルム自体の保温性能はScreen_Alの方が優れていると判断できる。

成果の活用面・留意点

  • 資材メーカーが、本研究の手法を用いてkallkvenおよびkを算出し、値をカタログ等に記載することで、ユーザーは、異なるメーカー間の資材の性能比較が可能となり、資材選定が容易になる。
  • 資材開発を行う過程で、サンプル資材のkkvenを算出することで、保温性能を向上させるための開発要素を明らかにできる。例えば、kが大きい場合は、フィルムなどの素材自体の保温性能を向上させることが必要で、kvenが大きい場合は、編み込み方法などを改善し通気を抑制することが必要と判断できる。よって、本手法は、資材開発の加速化に貢献する。
  • 保温性能を重視する場合は、通気が少なく、kvenが小さい資材が望ましい。しかし、カーテン資材の材料の種類や加工方法によっては、意図的に通気性を増やし、温室外張り面で結露を誘発し、除湿効果を売りにしているものもある。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:脱炭素型農業実現のためのパイロット研究プロジェクト)
  • 研究期間 : 2021~2024年度
  • 研究担当者 : 大橋雄太、土屋遼太、石井雅久、林真紀夫
  • 発表論文等 : Ohashi Y. et al. (2024) Journal of Agricultural Meteorology 80:62-68
    doi:10.2480/agrmet.d-23-00025