施設園芸の脱炭素化に資するネット・ゼロ・エネルギー・グリーンハウス(ZEG)の要件定義

要約

施設園芸の脱炭素化の取り組みを評価する指標として、温室単体(ZEG)と温室を含むその他の設備が集合する農場(ZEF)の要件定義を示す。コチョウランの生産温室を評価すると、電気式ヒートポンプの導入、保温性能の向上、太陽光発電等の再エネ導入により、ZEGになると評価される。

  • キーワード : 暖房、CO2排出削減、再生可能エネルギー、みどりの食料システム戦略、成績係数
  • 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

地球規模で気候の温暖化が進む中、全世界でGHG削減に向けた取り組みが進められ、国内でも多くの産業で一次エネルギーの消費が削減される中、農林水産分野においても省エネルギーと脱炭素化の取り組みは必須となっている。農林水産分野で消費される主なエネルギーは重油、灯油、軽油、ガソリン、電力であるが、その中でも漁船の内燃機関と施設園芸の暖房や木材乾燥などで用いられているA重油が最も多い。このため、農業分野の中では施設園芸で消費される化石エネルギーの削減が喫緊の課題となっており、温室の省エネルギー性能を高めるとともに、CO2排出量削減に向けて、化石エネルギーから再生可能エネルギーへの転換が求められている。一方、住宅・建築分野では、net Zero Energy House(ZEH)、net Zero Energy Building(ZEB)に関する定量的な定義が定められ、国の施策として利用されている。また、米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)は2023年に、ZEBとnet Zero Carbon Building(ZCB)の新たな評価方法を公開している。本研究では、先行するZEHやZEBの要件定義を参照しつつ、施設園芸分野における脱炭素化に向けた取り組みを示す指標として、温室単体(ZEG:net Zero Energy Greenhouse)と温室を含むその他の設備が集合した農場(ZEF:net Zero Energy Farm)の2種類の定義と評価方法を開発し、それぞれの要件を定義する。ZEGについては、レファレンス農場の年間一次エネルギー消費量で無次元化した基準化供給量及び基準化需要量の収支から、段階的に評価、ラベリングを行う。ZEFについては、農場の敷地境界への配送エネルギーと、敷地外への逆送エネルギーの収支から評価を行う。ZEG、ZEFともに、評価指標は原則として一次エネルギー消費量とするが、CO2排出量やエネルギーコストによる評価も可としている。

成果の内容・特徴

  • 施設園芸で用いられるZEGおよび温室を含むその他の設備が集合したZEFの2種類の要件として、図1にZEGとZEFの定義、図2にZEGとZEFにおけるエネルギー需給のバランスを示す。なお、ネット・ゼロ・エネルギーに関しては、米国エネルギー省(DOE)および空気調和・衛生工学会で作成されているガイドラインに従い、式(1)または式(2)で定義する。

    G≧C・・・(1)
    E≧D・・・(2)

    ここで、Gは生成(再生)エネルギー、Cは消費エネルギー、Eは逆送(外部へ供給したエネルギー)、Dは配送(外部から供給されたエネルギー)である。対象温室単体または農場を境界とする。ZEB、ZEHでは式(1)が示す生成(再生)/消費の収支によるG-C定義が採用されているが、ZEFでは温室単体のみではなく農場全体を考える場合には、農場の内部でのエネルギー需給があるため、G-C定義の適用は難しく、式(2)に示す、敷地境界を基準とした配送/逆送の収支によるD-E定義を適用する。
  • ZEGの定義はZEBの定義と同様に、生成(再生)/消費の収支G-C定義によるものとする。ZEBでは、基準となるエネルギー消費量は、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)における基準BEI(Building Energy-efficiency Index)=1を用いるが、温室に関してはこれが明確に定まっていない。そこでBEI=1となるレファレンス温室の年間一次エネルギー消費量は、外皮固定1重の被覆資材(外張りのガラスやフィルム)と重油式の暖房機等の標準的な環境制御設備が導入された温室として定め、原則として年間積算値で評価することとする。
  • ZEGの評価基準として、レファレンス温室の年間一次エネルギー消費量で無次元化した供給量G*及び基準化需要量C*の収支に対し、式(3)~(5)のようにZEGの達成度を段階的に評価し、ZEGのラベリングを行う(図3)。
    ZEG
    (C*-G*)≦0・・・(3)
    Nearly ZEG
    0<(C*-G*)≦0.25 (ただしC*≦0.5)・・・(4)
    ZEG Ready
    0.25<(C*-G*)≦0.5 (ただしC*≦0.5)・・・(5)
    ZEG Oriented
    0.5<(C*-G*)≦0.7 (ただしC*≦0.7)・・・(6)
    ここで、G*:基準化供給量=評価対象温室の生成エネルギー/レファレンス温室の消費エネルギー、C*:基準化需要量=評価対象温室の消費エネルギー/レファレンス温室の消費エネルギーである。被覆資材が外皮固定1重の温室に対し、室内に保温被覆を1層追加すると放熱量が約3割削減、2層追加すると約5割削減されることから、(C*-G*)が0.7以下の場合をZEG Oriented、0.5以下をZEG Ready、0.25以下をNearly ZEG、0以下をZEGの基準とする。
  • ZEFは配送/逆送の収支によるD-E定義とし、式(7)で定義する。

    E-D≧0・・・(7)

  • 図4にケーススタディを行った評価対象農場(埼玉県北本市、作目:コチョウラン)と、ZEGの評価結果を示す。対象農場には温室11棟(3,600m2)、事務所1棟(200m2)、太陽光発電(PV:Photovoltaic、発電容量:250kW)があり、各温室には電気式空気熱源ヒートポンプ(定格冷房能力75kW、定格暖房能力84kW)が導入され、夏季は日中25°C、夜間15°C、冬季は日中27°C、夜間18°Cを目標に冷暖房を運転している。外皮固定の被覆資材はフッ素樹脂フィルムであり、壁面には農業用POフィルムの保温カーテンが2層、天井面には保温カーテンと遮光カーテンがそれぞれ2層ずつ設置されている。対象温室と同規模の外皮固定1重の被覆資材と重油式の暖房機等を導入したレファレンス温室1棟あたりの基準一次エネルギー消費量(602GJ/年)に対して、ケーススタディを行った対象温室では、56%の一次エネルギーの需要量が削減される。さらに敷地内の太陽光発電で生成一次エネルギーが47%供給されるので、ZEGになると試算・評価される。

成果の活用面・留意点

  • 本成果はZEGを導入するための指標となるものであり、その利用者は施設園芸生産者・事業者、普及指導機関、農協、温室製造企業等を想定している。
  • 本成果の活用先は全国で環境制御装置や加温設備を導入している園芸用施設(約15,000ha)。
  • 今回は暖房負荷のみを想定したが、温室の環境制御の状況に応じて冷房負荷や補光による照明負荷などその他の負荷も考慮する場合が考えられる。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金、経済産業省(新技術先導研究プログラム:エネルギー・環境新技術先導研究プログラム)、環境省(地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業)
  • 研究期間 : 2021~2024年度
  • 研究担当者 : 石井雅久、森山英樹、土屋遼太、大橋雄太、三木昂史、関航太郎、於保拓高、田辺新一(早稲田大)、菅野颯馬(早稲田大)、林泰正(ホルトプラン合同会社)
  • 発表論文等 : 菅野ら(2024)日本建築学会技術報告集、30:251-256
    doi:10.3130/aijt.30.251