要約
営農型太陽光発電に関して国内外の科学論文データベースそれぞれを分析すると、わが国の営農型太陽光発電の事業数は増大の傾向にあるが、国内の科学論文数は5本/年程度と少なく、分野としても農学・栽培学関連は多くない。持続的な農地利用のため体系的な研究推進が必要である。
- キーワード : 農地利用、太陽光発電、再生可能エネルギー、論文データベース、研究動向
- 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
営農型太陽光発電は農地上部に太陽光パネルを設置する農地の利用形態である。2016年に発効したパリ協定や日本国政府が表明した2050年までのカーボンニュートラル化を背景に再生可能エネルギーの重要性は高まっており、そのなかでも太陽光発電は比較的導入しやすいため注目が集まっている。特に営農型太陽光発電は新たな発電用地を要さないことや、農地所有者にとっても農業収入に加えて発電による収入が得られるため、条件不利農地の継続利用や荒廃農地の再生といった持続的な農地利用にもメリットがある。一方、事業者によっては太陽光発電収入の比重を不適切に大きくする運用を行うことで、下部農地の光環境が悪化し適切な農業生産が行われていない事例もある。この一因は営農型太陽光発電事業の拡大が完全には科学的根拠に立脚していないことにある。持続可能な営農型太陽光発電の事業実施のため、日本国内および世界の科学論文データベースを巨視的に分析し、本技術に関する研究開発の現状を明らかにする。なお、国際論文はClarivate社のWeb of Science Core Collection、国内論文は国立情報学研究所が運営するCiNiiを調査対象データベースとする。
成果の内容・特徴
- 営農型太陽光発電は、類似するシステムが西ドイツの研究者により1982年に提案され、日本での特許出願(2004)を経て2010年代前半から実用化された。一方、研究論文発表数は国内外ともに2020年頃までは限られており、特に国際論文誌については2020年以降に顕著な論文数の増加がみられる(図1、図2)。
- 日本国内での論文発表数は2022年までに31件ときわめて限られている。一方、営農型太陽光発電の許可件数は農地法で認められた2013年以降継続的に増加しており、累積の許可面積は毎年平均20%以上のペースで増加を続けている。このことは事業者が科学的論拠への十分なアクセスが得られない状況で事業のみが拡大している現状を示している(図2)。
- 国際論文データベースにおいて対象論文に行われている分類を集計したところ、営農型太陽光発電に関する論文の大多数が「環境科学」と「エネルギー工学」に分類されているとともに、上位10分類のうち農業・植物に関する分類は栽培学と植物科学の2分類のみであり、その割合も上位10分類の13%に留まっている。このことは、発電パネル下という太陽光の直達成分が遮蔽された特殊な環境下での作物栽培に関する研究が十分に行われていないことを示している(図3)。
- 各論文に紐づけられたキーワードを分類し集計すると、世界的には太陽光発電と関連するキーワードの出現頻度は農業関連のキーワードの約1.6倍である(図4)。また、農業関連のキーワードは論文データベースにより自動で設定されたもの(Keywords Plus)の割合が多く、著者が意図していないものである点にも留意が必要である。
- 日本国内で発表された論文のキーワードに関しても同様の分類を適用すると、上位5分類に「社会・制度」と「土地利用」が含まれている点が国際論文データベースとは異なる傾向である。この2つに分類されたキーワードの数は「栽培環境・栽培技術」および「エネルギー利用」の約2倍であり、日本では地域計画や社会科学的視点における研究が大きな割合を占める(図4)。
成果の活用面・留意点
- 営農型太陽光発電は「農業+再生可能エネルギー」というイメージが先行しやすいが、農地利用の観点で持続可能な形態で扱ううえでは、依然、農学的・栽培学的知見へのアクセスが難しいという状況を把握する必要がある。
- 太陽光発電パネル下での作物生育については各国で研究事例があるが、作物生育の律速要因は光環境だけではなく気温、湿度、土壌水分量など多数の環境要素が絡む複雑なものである。上述の通り、国際的にも栽培試験を含む文献は限られており、現状はオーソライズされた情報は不足している。従って、今後は太陽光発電パネル下という特殊な環境下での作物栽培に関わる研究を中心に、本分野の研究の体系的な推進が必要である。また、営農型太陽光発電の導入に際しては、対象地域の公設試等で適切な栽培試験を行い、最適な事業設計を行う必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、経済産業省(新技術先導研究プログラム:エネルギー・環境新技術先導研究プログラム)、SIP
- 研究期間 : 2020~2024年度
- 研究担当者 : 土屋遼太、大橋雄太、森山英樹、石井雅久
- 発表論文等 : 土屋ら(2024)農業施設、55:64-82