農業用貯水池堤体内の浸潤面観測に関するデータ管理・共有パッケージ

要約

農業用貯水池の堤体に設置された観測孔の水位を計測するシステムと計測結果を3次元可視化するプログラムを統合したパッケージである。堤体内部の浸潤面の変化を安価かつ直感的に把握し、関係者で共有することが可能になり、日常的な管理のほか、堤体の改修の判断等に活用できる。

  • キーワード : 水位観測孔、浸潤面、3次元統合表現、農業用貯水池、データ連携
  • 担当 : 農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設整備グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

農業用ダムやため池等の堤体(土構造物)の維持管理においては、目視による外観調査や浸透量観測施設による浸透量の計測が中心となっているが、貯水機能を維持するためには地中内部の浸透状況を把握することも重要である。また現在、堤体の改修工事が行われているが、堤体の遮水性等の評価も重要である。浸透量観測施設のないアースダム等では、観測孔の水位を計測して浸透状況を点検しているが、計測機器の設置やデータの回収・解析にコストを要している。
本研究では、観測体制の低コスト化のため、安価なセンサを活用した観測孔による水位計測システムを構築するとともに、観測孔水位データから堤体等の土構造物内部の浸潤面を3次元的に可視化し、これらの情報を行政やため池管理者等の関係者で共有する仕組みを提供する。

成果の内容・特徴

  • 本パッケージは、(1)低コストなセンサによる多点の水位計測システム(以下、計測システム)と(2)観測孔水位や貯水位のデータから浸潤面の3次元モデルを生成・表示するプログラム(以下、生成・表示プログラム)からなる(図1)。生成・表示プログラムはwebブラウザ上で動作するため、クラウドやインストールを必要としない。また、OSや端末(PC、タブレットなど)に依存せずに利用でき、行政やため池管理者が任意の環境、構成で3次元モデルとして表示された浸潤面を監視・共有できる。日常的な管理に加えて、行政においては、過去との浸透状況の変化を比較することによる堤体の改修範囲の判断や堤体の改修前後での比較による改修効果(遮水性等)の確認に利用することが可能である。
  • 計測システムは、工業分野で利用される低コストの水位計(圧力式・電流出力・精度0.5%)と通信機能付きデータロガーを組み合わせたものである。一般に用いられる電圧出力形の水位計を採用した場合と比較して、計測システム全体(水位計とデータロガー)で1/2~1/4以下のコストで導入可能であり、観測コストを大幅に削減できる。また、観測コストを削減できることで、従来より多くのセンサで観測することが可能となり、より詳細な浸潤面の把握につながる。
  • 観測データは計測位置と時刻に紐づけられたデータ(csv形式)としてデータロガーに記録された後、設定した時間間隔でサーバ等に自動転送・保存される。転送されたデータは、生成・表示プログラムに入力され、堤体内部の浸透状況を示す3次元モデルとしてwebブラウザ上に表示される。さらに、生成・表示プログラムはダッシュボードで任意の時刻を選択することで浸潤面の時系列変化を確認できる(図3)。これにより、データの回収と解析に要するコストを削減することができる。また、リアルタイムで浸透状況を確認することができるため、管理者は水位データの異常や水位計の故障等の状況変化を迅速に把握できる。
  • ため池を模擬した土構造物での実証試験の状況を図2に、そのときの結果の一部を図3に示す。貯水を始めると、時間経過とともに貯水池側の観測孔の水位が上昇していく様子が「3D浸潤面モデル」に表示されている。さらに、湛水前から定常状態に至るまでの浸透状況の時系列変化なども確認でき、目視点検が困難な堤体内部の浸透現象の変化を把握することができる。図3下に示される各観測孔の水位データグラフと比較すると、観測データを解析して3次元表示することにより、浸透状況を直感的に把握できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 行政部局、農業用貯水池管理者、改修工事に係る民間企業。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 水位観測孔の設置された農業用貯水池堤体および堤体の改修工事を実施する地域。
  • その他 : API通信を用いた情報共有は、数値データおよび画像データか3次元データを取り扱える任意のデジタルプラットフォーム(例えば農研機構が運用する「ため池デジタルプラットフォーム」)において原理的に実現可能である。
    R8年度に複数の観測孔を有する堤体および堤体改修地区の既存データへの適用の実証試験(アースダム2地区、ため池1地区)を実施予定である。
    低コスト化を図るために工業用の水位計を用いる場合、型式は問わないが、事前のキャリブレーションもしくは随時水位観測孔を手計り水位計で計測し、検証することが必要である。

具体的データ

図1 本システムのデータ取得から共有までのプロセス,図2 工業用センサ(圧力式・電流計測)を用いた計測装置と堤体への実装,図3 webアプリケーションによる解析結果の3次元表示の時系列変化

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2022~2025年度
  • 研究担当者 : 本間雄亮、黒田清一郎、牧野信夫
  • 発表論文等 :
    • 本間ら(2024)農業農村工学会誌、92:95-98
    • 本間ら(2024)職務作成プログラム「農業用貯水池堤体内のデータ駆動型デジタルツイン構築プログラム」機構-Q79