階段状放水路との組み合わせによる洪水吐減勢工の小規模化

要約

洪水吐の放水路を階段状とすることで放水路において放流水のエネルギーを減勢できるため、減勢工を2/3程度に小規模化できる。工期短縮、工事費縮減、用地問題の解消等に繋がる。

  • キーワード : ため池、洪水吐、放水路、階段状水路、副ダム型減勢工
  • 担当 : 農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設保全グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

全国に約5万3千箇所ある防災重点農業用ため池に係る防災工事等では、堤体の決壊を防止して下流の被害を回避することを目的に、洪水吐の流下能力を向上させるための大規模化も行われている。しかし堤体の下流側に設置される減勢工については、用地問題によって大規模化が難しい場合がある。そのような状況に対し、放水路を階段状(以下、階段状放水路)とすることで、放水路において放流水のエネルギーを減勢させ、減勢工の規模を小さくすることは有効である。減勢工の小規模化には、用地問題に加えて、工期短縮、工事費縮減、周辺環境への影響の低減等の効果もあると考えられている。しかし、階段状放水路とすることで減勢工をどの程度小規模化できるのかについては、これまで十分に明らかにされていない。
そこで、本研究では水理模型実験と数値流体解析を行い、階段状放水路とすることによって減勢工をどの程度小規模化できるかを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本技術の概念を図1に示す。放水路が傾斜型になっている従来の設計(以下、傾斜放水路)では、洪水を減勢するため、放水路の直下流に減勢工を設置するが、本技術では放水路を階段状放水路とすることで放水路においても放流水のエネルギーを減勢させるため、減勢工のうち水叩きの長さを縮小するものである。なお本技術では、減勢工として適用範囲が最も広いと考えられる副ダム型減勢工(図1)を対象としている。ため池整備指針によれば、傾斜式放水路の場合の副ダム型減勢工の水叩きの長さは、水叩きの始点における射流水深※1に対する共役水深※2の6倍以上とすることとされている。
    ※1 「流れの速さ」>「水面の波の速さ」の状態を射流、そのときの水深を射流水深という。
    ※2 「流れの速さ」<「水面の波の速さ」の状態を常流、そのときの水深を常流水深といい、単位体積重量あたり単位幅あたりの運動量が等しくなる射流水深と常流水深を互いに共役水深という。
  • 階段状放水路のステップ高さとステップ長さは、設計最大流量Qを流下したときに、主流が各ステップの角を結んだ線の上方を流下して各ステップの隅角部近くで常に渦が形成されるスキミングフロー(図1)になるように設計する。スキミングフローが発生する条件は、ステップの高さSWが次式から逆算されるSW_MAXを下回ることである。

    SW_MAX/hc=(7/6)×(tanθ)1/6

    ここでθは放水路の勾配(tanθ=SW/SL)、SLはステップの長さ、hcは設計最大流量に対する限界水深(hc=(Q2/B2/g)1/3、Bは放水路の幅、gは重力加速度)である。
  • 勾配1/1.8、総落差3.00m、ステップの数15、ステップの高さ0.20m、ステップの長さ0.36m、単位幅流量0.512m2/sを対象とした縮尺1/4の水理模型実験において、水叩きの長さを変化させたときの副ダム上流面(図1)における水深の変動(以下、水深変動)を計測した結果を図2左に、そのときの流況の写真を図2右に示す。水深変動は、減勢工からの流れにおける乱れ、すなわち減勢工による減勢状況を表すものである。傾斜放水路の場合の設計指針による減勢工水叩きの長さおよび水深変動を基準(1.0、赤点)にすると、階段状放水路に変更することにより、①水叩きの長さが傾斜水路と同じ長さの場合、水深変動は約0.64となり、減勢工から放流される流れの乱れを著しく低減できること、②水叩きの長さを2/3程度にまで短くしても、水深変動は1.0を下回り、減勢工の効果が発揮できること、が分かる。
  • 勾配1/2.0、総落差16.06m、ステップの数40、ステップの高さ0.4015m、ステップの長さ0.8030m、単位幅流量3.50m2/sを対象とした縮尺1/11の数値流体解析によって、3.と同様に階段状放水路に変更することの効果をシミュレーションした結果を図3に示す。ただし、図3では、水深変動でなく、副ダム上流面(図1)における流量の変動(以下、流量変動)を基準(1.0、赤点)として評価している。流量変動は、減勢工からの流れにおける乱れ、すなわち減勢工による減勢状況を表すものである。階段状放水路にすることにより、水叩きの長さを2/3としても、流量変動は1.03であり、従来設計と同程度となることが確認できている。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 防災重点農業用ため池に係る防災工事に係る事業を行う行政機関、関連する業務を担当する民間の設計会社および施工会社。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 防災重点農業用ため池に係る防災工事等の推進に関する特別措置法の有効期間(令和13年3月まで)に同工事が実施されるため池10地区。
  • その他 : 放水路を階段状とする場合にのみ有効である。この場合の放水路における水深の計算方法については、既往の研究を参照されたい。今回の検討の対象は、放水路の勾配1.8~2.0である。

具体的データ

図1 階段状放水路、副ダム型減勢工、スキミングフローの概念図,図2 水理模型実験※による副ダム上流面における水深変動と流況,図3 数値流体解析※による副ダム上流面における流量変動と流況

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2024~2025年度
  • 研究担当者 : 浪平篤、森充広、田中良和、大山幸輝
  • 発表論文等 :
    • 浪平、森(2026)土木学会論文集、82(16):25-16030
    • 浪平、森(2026)農業農村工学会論文集、322:II_1-II_7