地下ダム管理のための新たな技術の手引き

要約

地下ダムにおける地下水管理を支援するため新たに開発した、地下止水壁の機能評価技術および機械学習による貯水位予測技術、またそれら技術の利用を容易にする農業用地下水管理支援システムを紹介する技術マニュアルである。

  • キーワード : 潮汐応答、地下水年代、地下止水壁、機械学習、水位予測
  • 担当 : 農村工学研究部門・水利工学研究領域・流域管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

南西諸島の一部では、地下の帯水層内に止水壁を造って地下水を貯留する地下ダムが主要な農業用水源となっている。そのうち初期の地下ダムの完成からおよそ30年が経過し、地下ダム管理のための技術の開発はますます重要になっている。地下ダム管理者は、止水壁沿いやダム貯留域の地下水観測孔で定期的に水位等の測定を行い、止水機能や貯水機能を点検・確認しながら地下ダムを農業用水源として運用している。測定機器を携行して多数地点で測定することで機能を点検する方法は、労力が多くかかることや連続的な機能評価が難しいなどの短所がある。近年地下水関連の研究分野で開発された技術を活かした、地下ダムの新たな管理技術の開発が求められている。
新たに開発した地下水位の潮汐応答分析または水質の分析による地下止水壁の機能評価技術、機械学習による貯水位予測技術、またそれら技術の適用を省力化できるシステムは、地下ダムの止水機能異常の早期発見や渇水の早期予測を通じて、地下ダム管理者および関係行政機関等による対策・対応の早期開始を可能にする。

成果の内容・特徴

  • 地下ダムの管理のための新たな技術の手引きは、地下水位の潮汐応答分析による地下ダムの止水機能評価技術、水質分析による地下ダムの止水機能診断技術および機械学習による貯水位予測技術を紹介し具体的な適用方法を説明するとともに、止水機能評価技術や貯水位予測技術で用いる地下水位データの取得と分析を省力化できる、新たな地下水管理支援システムを紹介する。
  • 地下水位の潮汐応答分析による地下ダムの止水機能評価技術は、海に接する帯水層に造られた地下ダム止水壁を挟む海側と内陸側で水位を連続観測し、地下水位の時系列データに含まれる潮汐応答成分を分析して止水壁の透水係数を計算し、その結果を正常時と比較することで止水機能の異常(低下)の有無を連続的に監視できる技術である(図1)。
  • 水質分析による地下ダムの止水機能診断技術は、降水が浸透して地下水となった年代(地下水年代)に関連する溶存ガス濃度等の水質が止水壁の上下流で異なることを利用する(図2)。大地震で止水壁に亀裂ができるなどで貯水の流出が生じると下流側の水質が上流側の水質に近づくことにより(図3)、止水機能の異常を検知する技術である。
  • 機械学習による貯水位予測技術は、地下ダム管理者が定期的に測定した水位と降水量、また気温等の気象データから計算される蒸発散位などの過去のデータに、機械学習技術を適用して、3ヶ月先など将来の地下ダムの貯水位を予測する技術である。
  • 狭小な地下水観測孔の地表面下に設置して、地下水位の連続値を省力的に取得できる小型ワイヤレス水位計、それと連携する遠隔観測システム、加えて潮汐応答分析・止水機能評価等機能も組み込んだ統合型農業用地下水管理支援システム(図4)は、新技術の利用を容易にする。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 地下ダム管理に関わる土地改良区、行政機関、民間事業者および研究者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 農業用地下ダムおよび他の目的の地下止水壁。
  • その他 : 地下止水壁の機能評価技術には、農研機構の特許が関連する可能性がある。機械学習による水位予測技術を特定の地下ダムで開発する場合、長期間の水位データの整備が前提となる。統合型農業用地下水管理支援システムは2026年に上市する見込みである。その一部分となる小型ワイヤレス水位計および連携する遠隔観測システムは先行して2023年から市販されている。

具体的データ

図1 地下水位の潮汐応答分析による止水壁の機能監視の概念図,図2 地下ダム止水壁の上下流の地下水質差の例,図3 止水壁の亀裂の水質への影響,図4 統合型農業用地下水管理支援システム

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(オープンイノベーション研究・実用化推進事業)
  • 研究期間 : 2020~2025年度
  • 研究担当者 : 白旗克志、福元雄也、吉本周平、土原健雄、井上一哉(神戸大学大学院農学研究科)、高橋昌弘(日本工営株式会社)、須賀原慶久(坂田電気株式会社)
  • 発表論文等 : 石田ら「地下ダム止水壁の透水性評価方法」特許第7460132号(2020年11月19日)