要約
無人航空機で用いられる自動制御系を平板状の浮体に搭載し、安価な魚群探知機を組み合わせて貯水池の音響測深を行い、取得した水深データを処理することで水中の堆砂(水底地形)を3次元データとして示す手法である。専門的な操作を必要とせず、施設管理者が利用できる。
- キーワード : 農業用貯水池、堆砂状況、魚群探知機、音響測深、低コスト
- 担当 : 農村工学研究部門・水利工学研究領域・水利制御グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
農業用の貯水池では、堆砂が進行すると貯水容量の減少や取水施設の閉塞等の問題が生じるため、堆砂を面的に把握することが望ましい。しかし、堆砂の計測には多くの予算と人手を要するため、面的な情報が十分に把握されていない場合が多い。そこで、施設管理者が自ら利用できる3次元の堆砂の取得手法を開発した。本手法は、無人航空機で用いられる自動制御系を搭載した水上無人機を用いて任意の航路を自律航行し、衛星測位と魚群探知機による測深と汎用ソフトウェアによる処理により堆砂の3次元データを取得できる。高額な機器や専門的な操船技術を必要とせず、迅速かつ少人数で堆砂状況を把握できる。なお、本手法は、農林水産省令和2・3年度官民連携新技術研究開発事業を契機として着想され、その後の研究開発を通じて発展したものである。
成果の内容・特徴
- 水上無人機(図1)は、無人航空機で用いられるクアッドローター(4個の羽)と、自律航行を実現するフライトコントローラなどを平板状の浮体に搭載し、一般の測量船と比べて容易に水平姿勢を保ちながら水面を自由に移動できる。本機は、航路、航行速度および機体の向きを事前に設定し、衛星測位情報に基づいて自律航行することが可能である。さらに、安価な魚群探知機を取り付けることで、シングルビーム音響測深による水深の値を低コストで取得できる。
- 航路ファイルは、フリーソフトウェア(Mission Planner)で作成する。作成の際は、水上無人機用の4セルリチウムポリマーバッテリー(4S LiPo)の持続時間(約30分)を考慮する。約0.2haの貯水池の例では、4つの航路ファイルを作成し(図2)、水上無人機のフライトコントローラに転送することで自律航行が可能となる。
- 自律航行(図3)では、移動しながら1秒間隔で音波を発信し、その反射から得られる水深の値に位置情報を付加したデータを取得する。約0.2haの貯水池の例では、バッテリー交換を3回行い、全データを1時間以内で取得できる。取得したデータは、満水位を基準とする標高に換算してGIS用の点群データとして整理することで、地理情報システム(QGIS等)により堆砂の状況を3次元的に表示できる(図4)。さらに、異なる時期に取得したデータを比較することで、場所ごとの堆砂の増加と減少を把握できる(図4)。このように、本手法は農業用貯水池を対象として、現地での複数回の運用を通じ、実用的な堆砂の把握に適用できる段階にある。
- 測量船によるシングルビームの音響測深と比較すると、本手法は施設管理者が直接利用できるため、委託費用が不要である。また、計測機器費は魚群探知機(約30万円)を用いることで安価に抑えられる。堆砂のデータは、従来の測線に沿った横断面図ではなく任意の範囲で3次元データとして示すことができる。さらに、現地作業(運搬、機器設置、ルート設定、測深、片付け)に要する人日は、水面幅150m・測線10本の測量(標準歩掛の1単位)において約1/10に短縮される。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 土地改良調査管理事務所、都道府県の出先機関、全国土地改良事業団体連合会。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 農業用貯水池(ゴミや流木が少ないこと、オーバーハングした植生が少ないこと、水上無人機と送信機との距離が300m以内であること)。
- その他 : 取水施設や障害物への接触を避けるため、水上無人機に360度カメラを設置している。操縦者はカメラ映像で周囲を確認し、必要に応じてマニュアルモードで操作できる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(官民連携新技術研究開発事業)、SIP
- 研究期間 : 2020~2025年度
- 研究担当者 : 向井章恵、黒田清一郎、春田健作(株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク)、大久保英徹(株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク)、黒岩賢司(株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク)、Ahmadinejad Farzad(株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク)、家保具太(株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク)、長田実也(中央開発株式会社)
- 発表論文等 : 向井、黒田(2025)農業農村工学会誌、93: 593-596