水利施設・農地の浸水を立体表示するデジタルツイン監視システム

要約

排水機場や農地を3Dモデル化し、水位データを与えるだけで、施設の屋内に高額な監視カメラを設置せずとも排水機場内の浸水下の設備状態や、広域の浸水深を遠隔から立体的に把握できる。災害時の迅速な判断や作業員の安全確保、BCPに基づく的確な対応を支援する。

  • キーワード : デジタルツイン、浸水深、氾濫、流域治水、BCP(事業継続計画)
  • 担当 : 農村工学研究部門・水利工学研究領域・水利制御グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

気候変動による豪雨の激甚化に伴い、排水機場などの農業水利施設では、建設当時の想定規模を超えた浸水リスクが増大している。被害を最小限に抑えるには、ポンプで排水すべき水(内水)と排水先の河川の水(外水)の状況をリアルタイムに把握し、適切なタイミングで施設を操作する必要がある。しかし、河川の洪水に対する監視体制と比べると、農村地域に膨大な数が存在する中小規模の農業水利施設においては、遠隔監視を可能にする水位計やカメラ等の整備が十分とは言い難い状況にある。加えて、施設内の詳細を把握するために監視カメラを用いる場合、映像の伝送に伴う通信費が高額になりやすいことも、導入・維持の妨げとなっている。このため、豪雨時に現場の状況を関係者間で共有できないことが課題である。
本成果は、排水機場やその周辺の水路、農地などを3Dモデル(デジタルツイン)として再現し、そこにリアルタイムの水位や浸水シミュレーションによる予測結果を重ねて表示するシステムである。従来の平面地図やカメラでは困難だった「浸水の深さ」や「濁水下にある設備の状態」を立体的に可視化する。これにより、遠隔からでも現場の切迫度が直感的にわかるようになり、作業員の安全を確保しつつ、施設の操作判断や避難判断を迅速に行うことが可能になる。

成果の内容・特徴

  • 本システムでは、排水機場や水門、排水路、農地などを3Dモデル化し、一般的なWebブラウザ上で動作する3D版GIS(地理情報システム)アプリケーションで閲覧できる(図1)。
  • 3Dモデルは、3DレーザースキャナやUAVで撮影した画像を解析して構築されており、広域な農地だけでなく、排水機場の建物外観と内部のポンプ設備が精密にデジタル空間へコピー(デジタルツイン化)されている。本システムでは、高精度の3Dモデル上で水位挙動を再現することにより、高額なPTZ(パン・チルト・ズーム)等の監視カメラを多数設置することなく、施設内の細部を視覚的に把握することが可能である。画面の表示においては、遠くから見る際はデータ表示を簡略化することで速度を優先し、拡大した際は詳細な設備形状を表示するなど、スムーズに状況を確認できる(図2)。
  • リアルタイムの水位データによる遠方監視に加え、水理解析によって数時間先の予測結果を3D地図上に重ね合わせて表示できる。これにより施設管理者は、現在の水位を水利施設の操作タイミングの情報として活用できるほか、農地や排水設備が「いつ・どこまで」水に浸かるかを水理解析によって前もって予測し、被害の程度を評価することが可能である。つまり、構築した3Dモデルに対し、リアルタイムの水位を与えるだけで、現場の浸水の状況や予測される被害度を正確に把握できるのが特徴である(図3)。
  • 本システムでは、排水機場の内部にて水に濡れるとポンプが停止する重要部品(軸受など)の高さや、農地において作物が被害を受ける浸水の深さを、それぞれ危険の基準(閾値)として設定できる。水位がその閾値に近づくと、画面上の水面や浸水エリアを表示する色が変化し、一目で危険が迫っていることを伝える(図4)。
  • 避難が必要な非常時には、広域の浸水の深さを把握できるため、現場へ移動する際の安全なルート選定や退避判断に役立つ。また、万が一ポンプが水没した場合でも、復旧に必要な資機材を画面上で素早く特定できるなど、BCP(事業継続計画)に基づく迅速な意思決定を支援する。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 灌漑排水計画の主体である地方農政局・土地改良調査管理事務所、地方自治体等。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 国営レベルの水田主体の灌漑排水事業が実施される地域に普及予定。
  • その他 : モデル構築のコストについて、古い施設では3Dスキャナ等を利用した点群データの取得に費用を要する場合があるが、近年の施設や新規施設においては、設計時のCADデータを活用することで、3Dモデル化の費用を大幅に低減できる見込みである。

具体的データ

図1 3Dモデルによる浸水モニタリングシステムの概要,図2 表示距離ごとのデータ表示イメージ,図3 水路で観測した水位から浸水範囲を推定して描画した例,図4 遠景時および近景時の浸水深に応じた水位色分け表示

その他

  • 予算区分 : 交付金、SIP
  • 研究期間 : 2022~2025年度
  • 研究担当者 : 中田達、吉永育生、福重雄大、皆川裕樹、吉瀬弘人、桐博英
  • 発表論文等 :
    • 吉永ら(2025)AI・データサイエンス論文集、6(1):369-373
    • Nakada T. et al. (2025) e-Journal of Nondestructive Testing 30(10)
      doi:10.58286/31723