農地を採熱・蓄熱源として活用する水平型地中熱ヒートポンプシステムと施工技術

要約

暗渠管埋設装置により農地に採熱管を高速かつ安価に埋設し、農地を採熱・蓄熱源とする地中熱ヒートポンプシステムを提供する。日中の蓄熱活用により冬季夜間の暖房消費電力を10%削減可能で、施設園芸の脱炭素化と地域のエネルギーマネジメントに貢献できる。

  • キーワード : 施設園芸、地中熱ヒートポンプ、カットドレーナー、脱炭素、VEMS
  • 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

現在、施設園芸に多く普及している空気熱源ヒートポンプは、冬季の暖房時において外気温が5°Cを下回ると熱交換器に着霜し、霜取り運転が発生する。このとき、ヒートポンプのエネルギー消費効率(以下COP、電力1に対し得られた供給熱量の比)が平常運転時3.0程度に対し2.0以下へ低下し消費電力が増加するほか、その際に冷風が吹くことで作物の生理障害誘発等の問題がある。そのため、安定した冬季暖房が可能なヒートポンプの採熱源を選定することが必要であるが、水熱源の場合は地下水源の偏在や水利権等の制約が多い。また地中熱源の場合は設置費が高価であるため、安価に設置可能な地中熱ヒートポンプシステムの施工技術と初期投資を回収するための運転コスト低減技術が求められている。
そこで、本研究では農研機構で開発した、生産者自らが暗渠を施工できる暗渠管埋設装置カットドレーナーを用いて、採熱管を農地などに高速かつ安価に埋設し水平型地中熱ヒートポンプシステム施工技術を確立すること、農地などを採熱・蓄熱源とする熱供給および蓄熱での本システムのCOP向上および消費電力低減を目的とする。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、農地地中に埋設される採熱管と地上部のヒートポンプ装置、熱供給先である施設内に配置する室内機から構成される水平型地中熱ヒートポンプシステムである。暗渠管埋設装置による施工方式を採用することにより、施工費用の低価格化を図ったところが特徴である。また、採熱管を流れる熱媒が地中と熱交換を行うことにより、採熱するだけでなく、放出される熱を地中に蓄熱することで地温を安定して保ちやすくなり、冬季の暖房時における消費電力低下と安定的な熱供給が可能となる。
  • 900m2の採熱管埋設試験において、従来のバックホウによる開削方式で工期は約10日であるが、カットドレーナー(図1)を活用した本システムの方式では、80mの採熱管1本を12分、900m2を2日で埋設することができ、施工期間を従来の1/5に短縮できる。また、同一構成で従来工法と施工費用を比較したとき、人件費などの掘削労務費で約90万円削減できるなど、合計で130万円弱、割合にして64%の費用削減が可能である(表1)。加えて、本施工方式は作土層を掘り起こすことなく、作土層より深い50~70cmの土を持ち上げて管を埋設する非開削方式であるため、農地の作土層および営農への影響を最小限に施工できる。
  • ヒートポンプシステムは暖房時には採熱源側へ冷熱を排熱し、冷房時には温熱を排熱する(図2)。本システムでは、この性質を利用し採熱管を流れる熱媒を介し排熱を地中へ蓄熱している。実証試験において、夜間暖房による採熱のみの場合では3日間の平均でCOP3.5から3.3まで低下する一方、昼間冷房による蓄熱を併用した場合、3日間の平均でCOP3.5から3.7まで上昇する(図3)。暖房開始時における採熱管周辺の地温は後者が1.3°C高く、このCOPの上昇は蓄熱の効果といえる。
  • 上述の結果より、夜間暖房の消費電力は熱供給量10MJに対し暖房のみの場合3.0MJ、蓄熱併用時に2.7MJであり、約10%削減できると推定される(図3)。温室は冬季昼間でも20°Cを上回るほど暖かいため冷房を使用しても生育に支障しないことが多く、短時間の蓄熱でも夜間暖房時の採熱効率向上が見込まれるため、余剰電力の活用による電力のデマンドレスポンスに対応可能である。また、農村地域の再生可能エネルギー利用100%(RE100)の達成や農山漁村向けエネルギーマネジメントシステム(VEMS)にも貢献できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 施設園芸生産者・事業者、地中熱利用を扱う民間企業、普及指導機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国の園芸用施設のうち環境制御装置や加温設備を導入する約15,000haとその施設の近隣農地。
  • その他 :
    • 採熱地面積の目安 : 1000m2の温室に対し20馬力(56kW)のヒートポンプが推奨されている。一般的な地中熱ヒートポンプでは冬季暖房による地中の熱枯れを防止するため、温室面積に対し3~4倍の採熱地が必要である。ただし本システムのように必要暖房量の半分を蓄熱することで、地中からの実質的な採熱量を減らすことが可能となり、1.5~2倍の採熱地面積でも賄うことができる。
    • 施設園芸以外への普及可能性 : 熱供給対象は農作物の保管庫や畜舎への熱供給も考えられ、地域によって農地だけではなく、採草放牧地なども有力な熱交換器埋設地となり得る。また、暗渠管埋設装置には暗渠管周辺の排水性向上を目的とした補助資材の投入口を有しているものが多く、この補助資材を採熱管と組み合わせることにより保水性を向上させることで蓄熱効率向上が可能になるなど、地域の熱供給目的や気候に合わせた調整ができる。
    • 普及における課題と留意点 : 本試験で用いたカットドレーナーは100馬力以上のトラクターによる使用を推奨しており、今後の普及に向けては大規模営農法人などと連携して実施する必要がある。また地中熱ヒートポンプシステムにおいては、蓄熱が自動で設定可能な市販品が現段階で存在せず、民間企業との協業により開発する必要がある。また熱の性質上、輸送時のロスが大きく採熱・蓄熱地と熱供給先において距離が無い方が望ましいこと、循環する熱媒の融点温度から日平均気温が氷点下以下となる地域への適用が難しいことがある。

具体的データ

図1 カットドレーナーによる採熱管埋設,表1 カットドレーナーを活用した施工と従来施工における採熱管の施工費用の比較,図2 本システムによって施工された実証温室における概念図,図3 採熱開始時の地温における蓄熱による上昇(左)と
採熱開始時の地温とエネルギー消費効率(COP)の関係(右)

その他

  • 予算区分 : SIP
  • 研究期間 : 2023~2025年度
  • 研究担当者 : 関航太郎、三木昂史、土屋遼太、石井雅久、遠藤和子、北川巌、岩田幸良(九州大学大学院)、舘野正之(ジオシステム(株))、高杉真司(ジオシステム(株))、五十嵐敬愛(ジオシステム(株))
  • 発表論文等 :
    • 関ら、特願(a)(2026年3月17日)
    • 関ら、特願(b)(2026年3月17日)