産地への面的なヒートポンプ導入とJ-クレジット制度参加における営農支援主体の役割

要約

産地のJAや県普及機関等の産地に根ざした営農支援主体がヒートポンプ導入とJ-クレジット創出を併せて推進することにより、ある程度まとまりのあるJ-クレジット創出が期待できる。また、J-クレジット事務局をJAが担うことで、農業者はJ-クレジットへの参加が容易となる。

  • キーワード : ヒートポンプ、J-クレジット、JA、導入技術の最適化、農業の脱炭素化
  • 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

我が国の農業分野においても脱炭素化が求められており、施設園芸ではヒートポンプ等の燃油を使用しない加温設備への転換が目標に掲げられている。ヒートポンプは燃油から電気へのエネルギー転換によって温室効果ガス(以下、GHG)排出量を削減する技術として期待され、導入した農業者は、エネルギーコストの削減とGHG排出削減量をJ-クレジットとして売却した際の収入が期待できる。しかし、ヒートポンプはその設備費用や技術の使い勝手が導入障壁となっており、その解消には外部支援の存在が求められる。また、J-クレジット制度への参加に関しても、農業者個々のGHG排出量が少ないため、認証コストの圧縮や大口の需要家といった販路確保のためには複数の活動を束ねて1つのプロジェクトとして取り組むことが望ましい。これら一連の取組の支援主体として、管内の農業者を束ねる立場にあるJAが最も適当と考える。
そこで本研究では、管内の農業者にヒートポンプを面的に導入し、J-クレジット認証を先駆的に実現したJAからつの取組を取り上げ、設備導入とJ-クレジット制度への参加についてJAや農業者へのヒアリング調査をし、JAや県普及機関等といった産地内にある営農支援主体が取組の成立に果たした役割を明らかする。他地域への横展開により、農業分野の脱炭素化が期待できる。

成果の内容・特徴

  • 対象地域では、農林水産省「施設園芸省エネ設備リース導入支援事業(以下、支援事業)」を活用して2014年と2015年の2年間に計101戸のハウスみかん栽培農業者が延べ1,319台のヒートポンプを導入し、2023年度時点では108戸がヒートポンプを利用している。
  • ハウスみかんの加温に必要な燃油量は平均15.33kL/10aあり(2022年10月から2023年3月までの実績値)、燃油価格の高騰が農業者の経営を圧迫している。産地ではそれが今後も続くとの予測から2007年より県や市町、JAが暖房コスト削減を目的とした省エネ技術の導入に取り組んでいる。2012年にはメーカーや電力会社等と共に冷暖房ができるヒートポンプ(技術A)の実証を、2013年には農業者の負担軽減のために設備費が比較的安価で暖房のみ可能なヒートポンプ(技術B)の実証をしており、その成果をもって技術Bを支援事業に追加している。JAや県普及機関では温度制御方法を研究しており、実証、農業者との意見交換や情報共有、手引き書の作成を行っている(表1)。以上のように、地域の営農支援主体が、(1)農業者への燃油価格高騰に対する問題意識の醸成、(2)産地に適した技術選択と支援事業の活用による設備費用の圧縮、(3)温度制御技術の確立に向けた支援に取り組んだことが、ヒートポンプの導入に結び付いている。
  • ヒートポンプの面的な導入が進むことで、産地単位でJ-クレジットのプログラム型プロジェクトが実施でき、大きなまとまりのあるJ-クレジット創出が見込める。2024年に認証されたJAからつにおける5年分のCO2排出削減量は約4万t-CO2、その売却益は約7,200万円になる。支援事業によるヒートポンプ導入費用の半額補助に加え、J-クレジット売却益(単価1,800円/t-CO2)は、設備費の平均で約1割に相当する。
  • JAがJ-クレジットの事務局として農業者を束ねて認証手続きを行うことにより、支援事業を通じて得た機器情報やJAが保有する園地台帳、荷受システム等を活用でき、モニタリングの検証にかかる資料の作成コストを大きく削減できる(図1)。加えて、これらの手続きを通じて園地台帳に加温設備やエネルギーの使用状況といったデータを補強している。個々の農業者の生産実績と加温状況、加温コストを確認することで、JAの営農指導に活かすことが可能となる。
  • JAは、農業者の電気消費量を一括で電力会社に開示請求をしている。農業者によっては対象となる契約の詳細を把握していなかった。そのような農業者が多いとJAの負担は増える。対象施設と電気の契約を事前に紐づけることが取組の課題となる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : JAや行政など、地域の農業指導や普及に関わる主体。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 普及予定地域は暖房需要の大きな施設園芸の産地。
  • その他 : (1)J-クレジット売却益や燃油削減の効果は、花き・果樹等燃油使用量の多い作目・作型になるほど大きい。(2)J-クレジットによる売却益確保には、販売先確保が課題となる。

具体的データ

表1 産地におけるヒートポンプ導入とJ-クレジット制度参加に関する取組の経緯,図1 J-クレジットの取組に必要な資料

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(農林水産研究推進事業 : 脱炭素型農業実現のためのパイロット研究プロジェクト)
  • 研究期間 : 2023~2025年度
  • 研究担当者 : 渡邉真由美、芦田敏文、唐崎卓也、山口正洋(佐賀県農林事務所)、遠藤和子
  • 発表論文等 : 渡邉ら(2025)農業経営研究、63(4)、39-44