ため池に転落した場合の脱出困難度評価手法

要約

人がため池に転落した場合に、斜面勾配と斜面材料のすべり抵抗の値から、堤体斜面を這い上がるための脱出困難度を評価する手法である。本手法は、水難事故を防止するための対策の優先度や斜面を這い上がるための補助具など具体的な対策の検討に活用できる。

  • キーワード : ため池、斜面、水難事故、すべり抵抗、脱出困難度
  • 担当 : 農村工学研究部門・農地基盤情報研究領域・地域防災グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ため池近傍での宅地化の進展等にともなって、非農業者がため池に接する機会が増加したこと等により、水難事故が発生している。ため池に人が転落する水難事故を防止する対策には、どのような斜面ならば這い上がって脱出(斜面を這い上がって水中から抜け出すこと)ができるのかを定量的に評価することが重要である。
そこで、本研究では、万が一、人がため池に転落して堤体斜面を這い上がって脱出しようとする場合を想定し、貯水をはったため池の斜面模型の這い上がり実験を行い、斜面勾配や斜面材料の違いによる脱出困難度(斜面からの脱出の難しさ)を定量的に評価する手法を示す。

成果の内容・特徴

  • 本手法は、ため池の「斜面材料のすべり抵抗係数」および「斜面勾配」と「脱出率」の関係(図1)から人が堤体斜面を這い上がる時の脱出困難度を定量的に算出するものである。近傍の住宅や施設を考慮しつつ、水難事故対策を行うため池の優先順位やロープやネットなどの対策の有効性を評価するために活用することができる。
  • 脱出困難度の算定には、斜面材料の「すべり抵抗係数(C.S.R)」が必要である。すべり抵抗係数は、床や地面のすべり抵抗の評価に用いられる「すべり抵抗試験機(図2a))」を使って、靴底と斜面との摩擦抵抗として測定できる。すべり抵抗係数は、材料が乾いている場合と濡れている場合で異なる。ため池の斜面材料として代表的な材料(土、コンクリート、表面遮水シート等)のすべり抵抗係数を記載する(図2b))。
  • 脱出困難度は、脱出率(図3)の逆数でほとんどの人が這いあがれる場合は1.0で、這いあがることができない場合に数字が大きくなる。この数値は通常の成人を対象としている。また、脱出困難度は、ロープやネット、斜面上の突起物(ブロックマットなど)など、手をかけることができる条件は対象外としている。
  • 斜面材料のすべり抵抗係数C.S.Rと斜面勾配θから、「斜面を滑ろうとする力」と「斜面材料と靴底の摩擦力からなる抵抗する力」の比F(C.S.R/tanθによる算出)を算出し、図1のグラフに当てはめると、脱出困難度を算定できる。
  • 図3のグラフは、農研機構においてため池の斜面模型を作成して、合計15人の被験者を対象に斜面を這いあがる実験(図4)を行って算出したものである。この実験から、ブロックマットなど手や足をかけて上ることができる場合は、すべり抵抗係数に関係なく、脱出困難度は1.0となる。また、斜面に苔が生えてすべりやすい場合には脱出困難度は大きく増加する。

成果の活用面・留意点

  • 本成果で算出される脱出困難度は、子供や高齢者、体力のない人を対象とした数値ではない。実際のため池では水温や水深、泥の堆積等で本実験と異なる条件が想定され、脱出率が本実験結果と異なる可能性が考えられる。したがって、優先順位を比較する等の相対的な評価のみに活用できることに留意する必要がある。
  • 具体的には、住宅や小学校が近いなど立地条件も勘案し、複数のため池の対策を検討する際に、脱出困難度を比較することにより、合理的に優先順位を検討することが可能である。

具体的データ

図1 すべり抵抗係数と傾斜度による評価,図2 斜面材料ごとのすべり抵抗評価,図3 脱出実験による脱出率,図4 人を対象とした這い上がり実験

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2022~2024年度
  • 研究担当者 : 井上敬資、廣瀬裕一、堀俊和
  • 発表論文等 : 井上ら(2025)農業農村工学会誌、93: 271-274