メタン発酵消化液の土中施用による作土中の窒素保持特性

要約

メタン発酵消化液の土中施用は、アンモニア揮散を抑制することにより、表面施用に比べて作土中の窒素濃度を高く保持できる。しかし、施肥から作付けまでの期間が長い場合、窒素の多くは硝酸態となるため、水稲の基肥としては効果が低いが、畑作物の基肥としては有効となり得る。

  • キーワード : 資源循環、有機態窒素、窒素濃度分布、硝化、アンモニア揮散
  • 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

メタン発酵消化液の利用拡大には施用時期の前倒し等によるピーク緩和が重要である。しかし、表面施用では、施用した窒素の3~6割程度がアンモニア揮散により失われる。また、不飽和状態の土壌に施用された消化液由来のアンモニア態窒素は次第に硝化し、その後の湛水や降雨に伴う脱窒や溶脱により作土中から減少する。したがって、施用時期の前倒し等によるピーク緩和を実現するためには、これらの窒素の損失を抑制することが求められる。消化液を土壌中に注入する土中施用は、窒素成分の損失要因であるアンモニア揮散を抑制できる。また、溝状に施用する土中施用は、表面施用と比べて施用箇所の土壌窒素濃度が高まり、窒素成分の損失要因である硝化を遅延できる可能性がある。さらに、硝化は土壌中の温度や酸素濃度に影響を受けるため、深い層ほど硝化をより遅延する可能性がある。そこで、本研究では、圃場試験により、湛水50日前の水田に消化液を溝状に2段階の深さで土中施用した場合の土壌中の各態窒素濃度の推移を表面施用の場合と比較することにより、土中施用によるアンモニア揮散の抑制と窒素成分の保持効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 土壌調査(図1)の結果、施肥15日後の各試験区の土壌中のアンモニア態窒素(NH4-N)濃度および硝酸態窒素(NO3-N)濃度からは、いずれの区でも硝化が進行していることが確認できる。また、表面施用した場合に比べて土中施用で硝化が遅れる様子や、20cmの深さの範囲において施用深度が深いほど硝化が遅れるといった傾向も認められない。これらの結果から、施用深度の違いによる土壌温度や酸素濃度等の差は、硝化に影響を及ぼすほど大きくないと推察される(図2)。
  • いずれの試験区においても、施肥42日後に硝化は完了しており、硝化は施肥後の15~42日の間で完了すると推察される(図2)。
  • 施肥50日後は、表面施用に比べて土中施用(深さ10cm)で作土中のNO3-N濃度が高く保たれている。すなわち、硝化が進んだ後でも降雨が少ない場合(図3)、溶脱は進みにくく、土中施用では施肥後のアンモニア揮散を抑制できる分、表面施用に比べてNO3-N濃度を高く保持することができる。
  • 以上をふまえると、土中施用は、深さ10cmと20cmでは、いずれも施肥後のアンモニア揮散を抑制でき、また、施用深度が深いほど硝化が遅れる傾向はみられないことから、生育初期の作物の根が到達しやすい深さ10cmへの土中施用が有効である。一方、土中施用をしても硝化は進むため、水稲の基肥として用いる場合、施肥から湛水までの期間が長くなると、硝化後の窒素が湛水時の脱窒等により作土中から失われ、窒素保持の面で不利となる。これに対し、畑作物の基肥として利用する場合、降雨が少ない条件であれば溶脱が抑制されるため、作土中の窒素成分の保持において有利となり得る。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、今後スラリーインジェクター等を用いて消化液の土中施用を導入する農業生産現場における参考情報となる。
  • 本成果は茨城県つくば市の黒ボク土の水田圃場で水稲の基肥における施肥時期の分散化(前倒し)を想定して3月下旬に施肥(消化液の施用)を行った結果である。土壌の種類や施用時期、気象条件が本成果の場合と大きく異なると、本成果の結果とは異なる可能性があることに注意が必要である。

具体的データ

図1 土中区の土壌採取方法,図2 施肥後の各試験区の土壌中の窒素濃度分布の推移,図3 試験期間中の日平均気温と降水量

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(農林水産研究推進事業 : 脱炭素型農業実現のためのパイロット研究プロジェクト)
  • 研究期間 : 2023~2025年度
  • 研究担当者 : 折立文子、松﨑守夫、中村真人、藤田睦、北川巌
  • 発表論文等 : 折立ら(2026)農業農村工学会論文集、94: II_27-II_33