中干し延長にJ-クレジット制度および自動給水栓等を活用する際の経済性評価

要約

J-クレジット制度(中干し延長)において、自動給水栓等の操作履歴および水位データを生産管理記録として用いる場合、関東地域の事例では、労力軽減効果とJ-クレジット制度による収益増加を合わせることで、機器導入に伴う追加コストの15~44%を補填できる可能性が試算される。

  • キーワード : 中干し延長、J-クレジット制度、自動給水栓、経済性、水管理
  • 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

水稲作において中干し期間を延長することで、温室効果ガス排出量を削減することができることが知られている。この栽培技術がJ-クレジット制度に方法論として登録され、その社会実装が進む中で、取組みの妥当性を証明するものとして生産管理記録の作成が農業者に求められている。とりわけ中干し期間の記録については、生産管理記録に加えて、記録と実態が相違ないことを客観的に確認できる証跡として給排水口の写真、またはICT水管理機器による給排水口の開閉履歴、水位センサーによる水位記録のいずれかが必要となる。土地改良事業に伴ってICT水管理機器を導入する事例も増加してきているが、現段階では、多くの水稲作経営体にとって自動給水栓の導入は追加コストとなる。そこで、本研究では関東地域の水稲作農家を事例として、J-クレジット制度および自動給水栓等を活用して中干し延長に取り組んだ場合の経済性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • J-クレジット制度により中干し期間の延長に取り組む際に、自動給水栓等を導入した場合の経済性は、(J-クレジットによる収益増加)+(自動給水栓の活用による水管理コスト削減)-(機器導入による費用増加)から評価される(図1)。
  • 関東地域の水稲作農家を対象に、表1の試算条件に基づき評価すると、J-クレジット制度による収益増加および水管理労力軽減による費用削減効果は、自動給水栓導入による追加コストの増加分を最小で15%、最大で44%補填することが可能であることがわかる(図2)。費用補填率の変動は、J-クレジット取引価格(本試算では1,551~16,500円/t)によるところが大きい。
  • 試算結果は、a.経営体の耕作条件、b.導入機器の価格(機種)、c.水管理時間の削減による費用軽減効果、d.J-クレジット収益見込み額の各条件に応じて変動する。
  • 追加費用の補填率を高める要素として、(1)大区画化等により面積あたりの自動給水栓の導入台数を削減し、導入・運用費用が低減すること、(2)慣行の水管理に労力を要しており、経費削減効果の大きい経営体であること、(3)中干し延長による10aあたりのメタン排出削減量が多い条件で取り組むこと、(4)今後J-クレジット取引価格が上昇することの4点が挙げられる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、中干し期間延長の取組みを検討している水稲作農家、J-クレジット制度のプロジェクト実施者、中干し延長の取組みを推進する地方公共団体等での活用が期待される。
  • J-クレジット制度における「中干し」とは、ほ場への給水を実施しなかった期間を意味しており、これを直近2カ年の実施期間から7日間延長することと定められている(2025年12月時点)。給水を実施した時点で中干しを終了したものとして取り扱うため、取り組みの実施にあたっては、ほ場の特性等を考慮する必要がある。
  • 本分析では自動給水栓等を自費導入する場合を想定している。農地整備事業等の補助事業による機器導入の場合の試算は、補助率など様々であることから別途試算が必要である。

具体的データ

図1 J-クレジット制度および自動給水栓等を活用して中干し延長に取り組む場合の経済性評価の模式図,図2 J-クレジット収益および水管理コスト削減額による自動給水栓等の費用補填率,表1 試算条件の概要

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(農林水産研究推進事業:脱炭素型農業実現のためのパイロット研究プロジェクト)
  • 研究期間 : 2022~2025年度
  • 研究担当者 : 藤井清佳、芦田敏文、渡邉真由美
  • 発表論文等 : 藤井ら(2026)農業経営学会誌、64:110-115