要約
稲作関係のエネルギー投入量は、農業部門全体の20%程度を占めると推計される。そのうちの電力消費は乾燥調製作業に偏っており電気の基本料金の負担が大きくなるが、エネルギーマネジメントにより電力コスト削減の可能性がある。
- キーワード : 産業連関表、乾燥調製作業、電力消費量、エネルギーマネジメント、電力コスト削減
- 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
日本の農林水産分野の温室効果ガス(GHG)排出量は5,084万t-CO2(2020年)であり、日本のGHG全排出量に占める割合は4.4%と小さいものの、2050年を達成目標として農林水産業のカーボンニュートラル達成のための取り組みが推進されている。国内の農地4,732千haに占める田の比率は54%、また田面積に占める水稲作付面積の割合は66%・1,575千ha(2020年農林業センサス)と、わが国農業に占める稲作の比重は依然として大きく、農林水産業のカーボンニュートラル達成のためには、稲作における脱炭素化の推進も欠かせないと考えられる。稲作におけるGHG削減の取り組みでは、水田中干し延長によるCH4排出量削減の取り組みが先行しているが、燃料燃焼による排出量を削減するために栽培に必要なエネルギー利用の転換、削減の観点にも目を向ける必要がある。
そこで本研究ではまず、産業連関表を用いてわが国稲作におけるエネルギー投入量を推計し、農業部門全体のエネルギー投入量に占める割合を確認する。次に、東北地域の大規模水田作経営の農業経営調査で得られたデータから経営のエネルギー消費特性を明らかにする。さらに、電力消費量が大きい乾燥調製作業を中心に電力消費の特性を把握し、加えて、稲乾燥調製作業におけるエネルギーマネジメントの実施によるコスト削減の可能性の一例を示す。
成果の内容・特徴
- 2020年の産業連関表の農業部門に属する作目分類「米」のエネルギー投入量は8.8PJ/年と推計され、その種別構成比は、灯油(32%)、軽油(31%)、電力(23%)、ガソリン(13%)の順に大きい。作物分類「農業サービス」にも稲作関連の米の共同乾燥・育苗施設や土地改良区が含まれ、そのエネルギー投入量は5.1PJ/年と推計される。農業部門全体のエネルギー投入量(63.6PJ/年)に対して「米」、「農業サービス」のエネルギー投入量はそれぞれ14%、8%を占め、稲作のエネルギー投入量も一定の割合を占める(表1)。このことから、カーボンニュートラル達成のためには稲作におけるエネルギー利用の転換、削減の推進も重要である。
- 一方、農業経営調査により作業別のエネルギー投入量を明らかにすることで、農作業過程におけるエネルギーの具体的な削減・転換方法やその経営上の効果について検討することが可能となる。農業経営調査の対象とした東北地域の大規模水田作経営(2024年の経営面積約55ha(2023年は約40ha)、水稲作付面積約40ha、転作はダイズ、無加温施設メロン)の2023年の投入エネルギー量の種別構成比は、灯油(29%)、軽油(38%)、電力(13%)、ガソリン(20%)であり、種別の消費特性として、ガソリン・灯油の投入は農機・車両の動力燃料として栽培期間を通じて必要となるが、灯油・電力の投入は秋の水稲乾燥調製作業に集中することが指摘できる。
- 事例経営の電力契約は4系統あり、年消費電力量は系統1(家屋内生活消費も含む単相電灯契約)が最も大きく、次いで系統4(ライスセンター建屋の三相動力契約)が大きいが、年電気料金は系統4が系統1を上回る。これは、系統4の接続設備である乾燥機・籾摺機等の定格電力合計から契約容量が大きく設定される一方、これらの設備の稼働期間は乾燥調製作業の時期に限定されるため、電気料金に占める基本料金割合がきわめて大きくなることが要因である(表2)。
- 事例経営における2024年の稲収穫開始日(9月6日)から調製最終日(10月10日)までの35日間における系統4の総消費電力量は6,214kWhであり、これは系統4の年消費電力量の67%、事例経営全体の年消費電力量の19%に相当する。乾燥機への籾張り込み後、乾燥機が稼働し、乾燥後の調製作業(籾排出、籾摺り、選別、計量、袋詰め)に電力が消費される。従って乾燥機への籾の張り込みを起点に調製作業の終了まで一連の電力消費が発生する。なお、収穫作業実施の可否は降雨の影響を受けるため、消費電力量もその影響を受ける(図1)。
- 電気基本料金の削減可能性を検討する観点から、稲の乾燥調製期間の系統4の30分デマンド値(30分あたりの消費電力量)の変動を確認すると、ピーク値は14.5kWh(電力負荷29kW相当)、契約容量38kWの76%の負荷を示す。しかし、期間中の30分デマンド値の平均値は3.7kWhであり、また10kWh(電力負荷20kW相当)以上の高負荷の時間の割合は全体のわずか5%である。つまり系統4の契約容量にはまだ余裕があり、かつ高負荷の時間帯は限定されている(図2)。
- 稲の乾燥調製期間は、乾燥機による乾燥作業、籾摺機等を用いる調製作業が並行して行われるが、上記5.で確認した20kW以上の負荷の時間帯では常に籾摺機が同時に稼働していることが確認できる。そこで、エネルギーマネジメントの一例として、調製作業の実施時間帯を乾燥機の稼働が少ない時間に移動し、30分デマンド値のピーク値を下げることが可能なら、契約容量を見直して基本料金を減額することで電力コストの削減ができる可能性がある。
成果の活用面・留意点
- 稲作経営におけるエネルギーマネジメント、稲作が展開する農村地域におけるエネルギーマネジメントを行うにあたっての参考情報となる。
- 農業の脱炭素化を推進するにあたっての参考情報となる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : SIP
- 研究期間 : 2023~2025年度
- 研究担当者 : 芦田敏文、唐崎卓也、渡邊真由美、藤井清佳、木村健一郎、上田達己
- 発表論文等 : 芦田ら(2025)農業農村工学会誌、93: 777-782