1-Methylcyclopropeneによるキュウリの生産調整法

要約

エチレンの作用阻害剤1-Methylcyclopropene(1-MCP)はキュウリの雌花率を下げる効果があり、着果調整に活用できる。1-MCPの処理濃度と雄花が発生する日を予測するモデルを活用し、計画的にキュウリ果実の生産量を一時的に制御可能である。

  • キーワード:キュウリ、1-Methylcyclopropene、生産調整、雄花化
  • 担当:野菜花き研究部門・施設生産システム研究領域・施設野菜花き生産管理システムグループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、施設園芸分野では、労働力不足が深刻化しており、作業効率の改善と作業量の平準化は重要な課題となっている。キュウリは果実肥大が速く収穫適期がごく短いため、生産現場では、収穫作業が間に合わず、規格外として廃棄せざるを得ないことがある。一方、植物ホルモンであるエチレン作用阻害剤は、キュウリの雄花を誘導し、雌花率を人為的に下げることが可能である。そこで、本研究では、エチレンの作用阻害剤(1-MCP)の影響を明らかにすると同時に、果実の生産量調整のための処理方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 第5葉が完全に展開した植物体を1-MCP処理した場合、10節から18節にかけて雄花が形成される割合が増加する(表1)。1-MCPは処理濃度を増加させると雄花が誘導される割合が増加する。4ppmの1-MCPを処理した場合、10節から16節にかけて雄花が形成される割合が増加するが、17節と18節では雄花は形成されないことから、1-MCPが雄花を誘導する効果は一時的である(図1)。
  • 1-MCPは濃度依存的に雄花が誘導される割合を上昇させる(図2)。実験1と2の結果から1-MCP処理濃度から雄花が誘導される割合を予測するモデル式を作成し、実験3の結果をグラフ上にプロットすると予測式のライン付近にプロットされる。
  • 実験1と2の結果から1-MCP処理前、3日間の日平均気温(T1)から1-MCP処理によって雄花が発生し始める節を予測するモデル式(Y=5+9.68・ln(T1)-20.15)と1-MCP処理濃度から雄花が発生する節の範囲を予測するモデル式(図3)を作成することができる。これらのモデル式から1-MCP処理によって雄花が発生し始める節と雄花が発生し終わる節を予測することができる。
  • 1-MCP処理後の日平均気温をTnとした場合、葉の展開速度はY=0.065ln・(Tn)-0.511の式で予測できる。1-MCP処理によって雄花が発生し始める節と雄花が発生し終わる節、日平均気温から雄花が発生する節の葉が展開する日を予測できる。

成果の活用面・留意点

  • 1-MCPは、収穫後の鮮度保持剤としてリンゴやナシなどに使用されているが、キュウリへの農薬登録はない。
  • 本研究で作成したモデルを用いることで、キュウリの果実生産時期を1-MCPによって制御し、収穫作業負荷を一時的に回避できる。
  • 本研究は特定の品種「フレスコダッシュ」(久留米原種育成会)を用いて得られた結果であり、品種によっては、異なる反応を示す可能性がある。
  • 本研究では1-MCPを気化させ、設定濃度に充満させたビニールハウスに第5葉が完全に展開した植物体を移し、16時30分から翌日の8時30分まで16時間処理した結果である。
  • 将来、収穫量が増加し作業者の不足が見込まれる場面で、日平均気温から1-MCPを処理する日を事前に決定し、収穫量の減少に必要な濃度の1-MCPを処理することで生産を調整できる。

具体的データ

表1 1-MCP処理による第10節から第18節に形成される雄花の割合の増加,図1 1-MCPによる第6節から第18節に形成される雄花と雌花の割合の増加,図2 濃度依存的な1-MCP処理による10節から18節に形成される雄花の割合の増加と雄花の割合の予測式,図3 濃度依存的な1-MCP処理による雄花が形成される節数の増加と雄花が形成される節数の予測式

その他

  • 予算区分:農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業、栽培・労務管理の最適化を加速するオープンプラットフォームの整備)
  • 研究期間:2019~2021年度
  • 研究担当者:小田篤、野村佳子、安東赫、礒﨑真英、東出忠桐
  • 発表論文等:
    • Oda A. et al. (2022) Hort. J. 91:42-48
    • 東出、小田 特開2021-087424(2021年6月10日)