カーネーション切り花の香りの保持に適した管理条件
要約
カーネーションは切り花にすると香気成分発散量が急速に減少して香りが失われる。芳香族化合物のオイゲノールを基調とするスパイシーな香りの品種では、切り花をエチレン作用阻害剤であるSTS処理後に水に生けた状態で管理することにより、香りの保持期間を2倍以上にできる。
- キーワード:オイゲノール、カーネーション、香り、切り花、湿式
- 担当:野菜花き研究部門・野菜花き品種育成研究領域・露地野菜花き育種グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
カーネーションには、芳香族化合物のオイゲノールを基調としたスパイシーな香り(オイゲノール系)の品種があり、その香りは香水や香料にも利用されている。しかし、オイゲノール系の切り花では香りが弱く、消費者からは香りの向上が求められている。オイゲノール系の切り花用品種は育種過程において香りが失われたと考えられている一方で、鉢植えの花では十分に香る品種が存在することから、切り花では、収穫後の生理的あるいは環境的要因によって、香りが失われている可能性がある。そこで、香りをカーネーション切り花の新たな付加価値として提案するために、収穫後の管理条件が切り花の香りに与える影響を調査し、切り花の香りの保持に適した管理条件を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 切り花にすることにより、鉢植えの状態と比較して香気成分発散量の減少が早まり、香りの保持期間が短くなる(図1)。
- 一般に、カーネーションの切り花は、輸送時に水に生けない状態で管理(乾式管理)されるが、乾式管理された切り花は、水に生けた状態で管理(湿式管理)された切り花よりも香気成分発散量の減少が早く、香りの保持期間が短くなる(図2)。
- 切り花の管理条件として、エチレン作用阻害剤(STS)処理後に湿式管理した場合は、STS処理後に乾式管理した場合(慣行の管理)よりも香りの保持期間が2倍以上長くなる(図2)。
- STS処理後の湿式管理の温度は、23°Cより10~15°Cの低温条件の方が、香りの保持期間が長くなる(図3)。一方、28°Cの高温条件では、香りの保持期間が短くなる(図3)。
成果の活用面・留意点
- 一般被験者(80人)がカーネーションの香りの強さを「よく香る・香る・あまり香らない・香らない」の4段階で評価したとき、70%以上が「よく香る」あるいは「香る」と評価した香気成分発散量の下限(6nmol/flower/h)以上である場合を"香る"と定義した。
- 試験は、蒸留水を使用し、相対湿度70%、12時間毎の明暗期および明期の光量子束密度約10μmol/m2/sの条件で行った。切り花は、開花当日の午前8時30分に収穫し、香気成分の採取は午前9時に行った。STS処理には、0.2mMの硝酸銀と1.6mMのチオ硫酸ナトリウム・5水和物を含む水溶液(STS溶液)を使用した。
- ここでは、品種「ミルキーウェイ」の結果のみ示したが、他の複数のオイゲノール系品種でも同様の結果を確認している。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金、農林水産省(品質保持期間延長技術の開発)
- 研究期間:2015~2021年度
- 研究担当者:岸本久太郎、渋谷健市
- 発表論文等:
- Kishimoto K. and Shibuya K.(2021)Sci. Hortic. 281:109920
- Kishimoto K. (2021) Hort. J. 90:341-348
- 岸本(2021)植調、55:186-192
- Kishimoto K. (2022) JARQ 56:163-170