パプリカの着果率には開花後1週間の乾物生産量と着果負担が寄与する

要約

パプリカの各節の着果率(着果数/開花数)には、総乾物生産量および着果負担(着生している果実の乾物増加速度の合計値)が影響する。それぞれの節において、開花後1週間における総乾物生産量と着果負担との比(ソース・シンク比)と着果率との間には強い相関がある。

  • キーワード : パプリカ、フラッシュ、着果負担、総乾物生産量、着果率
  • 担当 : 野菜花き研究部門・施設生産システム研究領域・施設野菜花き生産管理システムグループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

パプリカの長期栽培では、フラッシュと呼ばれる収量の増減の繰り返しが、出荷や作業配分等で問題となる。この収量変動は、花が果実になる割合(以下、着果率)の変動に起因すると考えられる。そこで、各節の着果率の変動に与える要因について、開花前後の群落の物質生産や成長中の果実による負荷に着目して明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 着生中の全果実の乾物増加速度を合計した値を着果負担(シンク)とする。着果率と、当該花の開花前後の総乾物生産量(ソース)、着果負担および両者の比(指定する期間の総乾物生産量/着果負担、以下、ソース・シンク比)それぞれの間の相関は、時期によって異なる。特に、着果率は開花から1週間のソース・シンク比との相関が強い(表1)。
  • 施設内の環境と着果状況から算出した開花後1週間のソース・シンク比と、各節の着果率とを比較すると、有意な相関がみられる(相関係数R=0.70、図1)。
  • パプリカのソース・シンク比は、着果開始から繰り返し増減する。ソース・シンク比の増減のタイミングと着果率の増減のタイミングは概ね一致する(図2)。

成果の活用面・留意点

  • ソース・シンク比は、施設内の環境と着果状況から算出できる。例えば、特定の時点における着果状況とその先1週間の気象データを用いて、乾物生産モデルによって総乾物生産量を推測し、積算気温からの近似式で推測した着果負担で除することで、栽培中のソース・シンク比が算出できる。本成果に基づいて、開花後1週間のソース・シンク比からパプリカの着果率を予測できると考えられる。これらの計算プログラムは、農研機構職務作成プログラムとして登録し、クラウドサービス(API)として提供予定である。
  • 収量変動の制御には、着果率の制御が有効であり、着果率の制御は、ソース・シンク比を制御すればよいと考えられる。総乾物生産量の調整には、CO2施用や補光など環境制御が、着果負担の調整には、摘果などによる着果量の調整が、それぞれ有効であり、これらを組み合わせてソース・シンク比の調節が可能である。
  • 本成果は、赤系品種「アルテガ」を用いて得られた結果である。養液栽培(ロックウール耕、2019年7月定植~2020年3月栽培終了)にて、適切な自動給液制御(排液率30%以上を維持)および環境制御(換気温度:25~28°C、暖房開始温度:18°C)を行い、栽植密度は7.5枝/m2、各節に着生する花は1つとして、節から発生する腋芽はすべて除去した。つまり、各節あたりの開花数を一定とした。なお、他の品種でも本成果と同様の現象が確認されている。

具体的データ

表1 開花前後の異なる時期における総乾物生産量、着果負担およびソース・シンク比と着果率との相関係数,図1 開花後1週間のソース・シンク比と着果率との関係,図2 開花後1週間のソース・シンク比および着果率の推移

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2019~2022年度
  • 研究担当者 : 本間優、渡部貴史、安東赫、東出忠桐
  • 発表論文等 :
    • Homma M. et al. (2022) J. Amer. Soc. Hort. Sci. 147:270-280
    • 東出ら「着果確率推定方法及び情報出力方法」特開2022-104601(2022年7月8日)