ブドウ糖添加による後処理はチューリップ切り花の香り保持期間を長くする

要約

チューリップ切り花では、市販のエテホン含有品質保持剤による前処理が普及しているが、これに1 %ブドウ糖添加の生け水を用いる後処理を組み合わせることで、無処理や前処理のみの場合と比べて香り保持期間を約2倍に延長できる。

  • キーワード : チューリップ、香り、切り花、ブドウ糖、後処理
  • 担当 : 野菜花き研究部門・野菜花き品種育成研究領域・露地野菜花き育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

一般消費者を対象としたアンケ―ト調査では、チューリップは香りのニーズが高い花き品目である。芳香性品種も見出されているが、チューリップ切り花の香り保持期間は短いため、その延長のための技術が求められている。チューリップ切り花は輸送前に市販のエテホン含有品質保持剤で前処理されるが、エテホンから発生するエチレンは多様な花き品目において香気成分の発散を抑制する作用が知られている。そこで、前処理がチューリップ切り花の香り保持期間に与える影響を明らかにする。さらに、前処理した輸送後の切り花に香気成分の基質となるブドウ糖の後処理を組み合わせることで、チューリップ切り花の香り保持期間の延長の可能性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • チューリップ切り花の発散香気成分の組成比は、前処理や前・後処理によって変化しない(図1)。
  • 切り花の開花2日後以降の発散香気成分量は、前・後処理では無処理より増加する。これにより、香り保持期間は、無処理および前処理では約2日間であるが、前・後処理では2倍以上の約5日間となる(図2)。
  • 切り花の日持ち保持期間は無処理では約5日間であるが、前処理と前・後処理では約7日間と同程度であることから(図3)、前処理による日持ち延長効果は後処理の影響を受けない(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 香りの保持期間が2倍になることにより、観賞期間中の香り保持効果が期待でき、香りをチューリップ切り花の新しい付加価値として提案できる。
  • 本実験で使用したのは、品種「サネ」である。安価で簡便な方法であるため、他のチューリップ品種に対する有効性の確認は容易である。
  • 無処理:収穫直後に水道水で3時間水あげした後、水を切らせた状態(乾式)で約1日間輸送した切り花を蒸留水に生けて、23°Cで維持した。前処理:水道水の代わりにチューリップ切り花用の品質保持剤であるクリザールBVBエクストラ(クリザール・ジャパン株式会社、大阪)で水あげした。前・後処理:前処理に加えて、輸送後の切り花を、1%ブドウ糖と0.05 %イソチアゾリン系抗菌剤(CMIT/MIT;Rohm & Haas,米国,フィラデルフィア)の水溶液に生けて、23°Cで維持した。後処理のみでは、花首が軟化して折れやすくなる場合がある。
  • 一般被験者(718人)がチューリップ切り花の香りの強さを「よく香る・香る・あまり香らない・香らない」の4段階で評価したとき、70 %以上が「よく香る」あるいは「香る」と評価した香気成分発散量の下限(1花・1時間当たり18 nmol)を、香りを感じるために必要な発散香気成分量と定義し、これを満たす期間を香り保持期間とした。

具体的データ

図1 チューリップ品種「サネ」の切り花の発散香気成分組成比の経日変化,図2 チューリップ品種「サネ」の切り花の発散香気成分量の経日変化,図3 チューリップ品種「サネ」の切り花の経日変化

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)
  • 研究期間 : 2016~2021年度
  • 研究担当者 : 岸本久太郎、渡邉祐輔(新潟農総研園研セ)
  • 発表論文等 : Kishimoto K. and Watanabe Y. (2023) JARQ 57:47-54