要約
オリエンタル系ユリ「シベリア」の光合成速度はCO2濃度を高めるにしたがって増加する。発蕾期以後の生育後期のCO2施用によって植物全体および器官ごとの乾物重や乾物率が増大し、切り花としての品質が高くなる。
- キーワード : オリエンタル系ユリ、乾物蓄積、切り花品質、CO2施用、光合成、生育段階
- 担当 : 野菜花き研究部門・施設生産システム研究領域・施設野菜花き生産管理システムグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
重要な切り花品目であるオリエンタル系ユリは、その生産に際して高品質化を目的にCO2施用を導入している生産者が一部あるものの、その効果についての定量的な検討はほとんど行われていない。本研究では、光合成による乾物蓄積が切り花品質を決定する重要な要因と考え、オリエンタル系ユリ主要品種「シベリア」のCO2濃度と光合成速度との関係をみるとともに、異なる生育段階においてCO2施用を行って栽培し、乾物蓄積および切り花品質に及ぼす影響について解明する。
成果の内容・特徴
- CO2濃度を大気レベルである400pmから高めるにしたがって、個体光合成速度は増加する(図1A)。この増加の割合はCO2の低濃度域で大きく、高濃度域では小さくなる(図1A)。
- CO2濃度を380ppmから1000ppmに高めると、光量-光合成速度(図1B)および温度-光合成速度(図1C)の曲線全体は光合成速度が高い方向に移動する。1000ppmから2000ppmに高めた場合でもこの移動はみられるが、その程度は小さい(図1B、C)。
- 発蕾期以後の生育後期のCO2施用(1500ppm)によって、開花時における植物全体および茎、花蕾の乾物重(図2)、花蕾の新鮮重(表1)、葉および茎の乾物率(表1)が増加し、切り花としての品質が高くなる。同時にりん茎の乾物重および乾物分配率が大きくなる(図2)。
- 発蕾期以後の生育後期のCO2施用によって、定植から開花までの相対生長率および純同化率は高くなる(表2)。前者により乾物蓄積が、後者により光合成が促進されていることが示される(表2)。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、オリエンタル系ユリの切り花品質の向上と切り下りん茎の肥大を目的とした、効率的なCO2施用技術開発に活用される。
- 個体光合成の評価は、2008年7月9日に直径25cmのワグネルポットに定植し、温度なりゆきのハウス内で栽培した植物を用いている。光合成の測定は、着蕾した状態である定植後52-63日の間(茎長61.5cm、全体新鮮重286g、葉面積1796cm2)に行っている。
- CO2施用試験は、2009年9月2日に直径21cmポットに定植し、CO2施用(4:00-18:00に1500ppm、それ以外はなりゆき)あるいはCO2無施用(全日なりゆき)とした屋外型恒温装置(GC)で栽培して行っている。発蕾が認められた定植30日後に半数の個体を相互に移動し、生育段階ごとのCO2施用の有無について4区の設定をしている。GC内の昼温(6:00-18:00)は25°C、夜温(18:00-6:00)は20°Cに設定している。各部位の大きさ、新鮮重、乾物重等の調査は、定植75日後の開花段階に一斉に収穫して行っている。
- オリエンタル系ユリ「シベリア」の、昼夜温を同時に変化させた場合の乾物蓄積および切り花品質への影響については2013年の、生育段階ごとの光量と光合成、乾物蓄積および切り花品質との関係については2015年の、温度と光合成との関係ならびに昼夜温を個別に変化させた場合の乾物蓄積および切り花品質との関係については2016年の研究成果情報として公表されている。
- オリエンタル系以外の系統のユリでは別途検討を要する。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2008~2009年度
- 研究担当者 : 稲本勝彦、長菅香織、矢野孝喜
- 発表論文等 : Inamoto K. et al. (2022) Hort. J. 91:541-550