要約
超音波による非接触の振動刺激を野菜類の難防除微小害虫に与えると、害虫が葉から離脱する。離脱した虫の除去を同時に行うことで、本技術は新しい物理的防除技術として利用できる。さらに非接触の振動を長時間与えることにより、コナジラミ類の産卵数が減少する。
- キーワード : コナジラミ類、アブラムシ類、カメムシ類、離脱促進、超音波集束装置
- 担当 : 野菜花き研究部門・野菜花き育種基盤研究領域・素材開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
タバココナジラミとワタアブラムシは様々な野菜や観葉植物、花き類などを加害する重要害虫であり、排泄物により生じるすす病や食害が問題となるほか、多種の植物ウイルスを媒介することから世界的に被害が深刻となっている。チャバネアオカメムシはカンキツ類やリンゴ、ナシ、カキ等の果樹害虫であり、果実を吸汁すると果実品質が低下することから防除が極めて重要である。これらの害虫について、化学農薬だけに頼らない、新たな防除技術が求められている。
一方、超音波を用いて非接触の振動を与えることのできる超音波集束装置(図1)は、イチゴの人工授粉などへの利用も検討されている。また、昆虫の多くは環境中の振動を検知する感覚器官を持っており、振動を感知して「停止する」「伏せる」「歩きだす」「足踏みする」「飛び立つ」などの反応を示すことが知られている。
本研究では、集束超音波による非接触の振動を用いた新たな防除技術を開発する。本技術を上記害虫類に適用すると、離脱促進効果や産卵抑制効果、摂食阻害効果が認められる。
成果の内容・特徴
- 本防除で用いる超音波集束装置(図1)は、特定範囲の空間(水平方向約20×20cm、垂直方向約10~50cm)に、離れた位置から約1.6g重の微弱な力(一円玉1.5枚分にかかる重力と同程度)を与えることができる装置である。強力な超音波が物体に照射されると、物体表面には音響放射力と呼ばれる微弱な力が働く。これは超音波の振動数とは関係がなく、超音波が照射されている間、静的に生じる力である。超音波を照射する/しないを交互に繰り返すことで、物体に触れずに1~1,023Hzの振動刺激を与えることもできる。
- 本装置を用いて、タバココナジラミ成虫が寄生したインゲンマメの葉裏に振動刺激(1~1,000Hz)を1分間与えると、最大約60%の成虫が葉から離脱する(図2、表1)。周波数条件によって離脱率は若干異なる。また、1日あたり4時間として2日間、振動刺激を与えると、同成虫の産卵数は半減する(表1)。
- 本装置を用いて、ワタアブラムシが寄生したナスの葉裏に振動刺激(1~1,000Hz)を1分間与えると、有翅成虫では最大約25%、無翅成虫では最大約15%が葉から離脱する(表1)。タバココナジラミと同様、周波数条件によって離脱率は異なる。
- ケージ内にチャバネアオカメムシ成虫10匹と餌(乾燥ダイズと水)を入れ、本装置を用いて非接触の力を上部から餌付近に計10時間与えると、2日後の総体重が約15%減少(無処理区では約10%増加)する(表1)。
成果の活用面・留意点
- 本防除装置を吸引機や黄色粘着板といった資材や、温室内全域を移動可能な台車等と組み合わせることで、より一層コナジラミ類等の防除効果が期待できる(図3)。
- コナジラミ類、アブラムシ類、カメムシ類以外の昆虫類に対する本装置の効果は未検証のため、不明である。
- 低温条件下では昆虫類の活動が鈍くなるため、離脱促進効果の低下がみられる場合がある。
- 農薬散布などの化学的防除だけでなく、天敵昆虫などの生物的防除や、光や防虫ネットなどの他の物理的防除との併用も可能であり、これらを複合的に用いることで農薬使用量の削減が期待できる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)
- 研究期間 : 2017~2022年度
- 研究担当者 : 浦入千宗、星貴之(ピクシーダストテクノロジーズ株式会社)
- 発表論文等 :
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Urairi C. et al. (2022) Appl. Entomol. Zool.57:183-192
- 浦入、星「集束超音波を利用したコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫又はカメムシ類害虫を防除する方法」特許第7352258号(2020年1月22日)