トルコギキョウの立枯病抵抗性を判別するDNAマーカー

要約

トルコギキョウ立枯病抵抗性系統と罹病性品種との交雑集団を用いた遺伝解析により、立枯病抵抗性QTLが2座検出される。これらQTLから設計された3つのDNAマーカーを用いることにより複数県から採取したFusarium oxysporumFusarium solaniに対する抵抗性を判別することができる。

  • キーワード : トルコギキョウ、立枯病、フザリウム、DNAマーカー、土壌病害
  • 担当 : 野菜花き研究部門・野菜花き品種育成研究領域・施設野菜花き育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

切り花国内産出額第4位のトルコギキョウにおいて、土壌病害は生産を不安定化させる主要因である。特にFusarium(フザリウム)属菌(F. oxysporumF. solani)による立枯病は土壌消毒を行っても根絶が難しく、生産現場では新たな対策技術の開発が求められている。一般的なトルコギキョウ品種はEustoma grandiflorum(グランディフロラム)由来であるのに対し、抵抗性系統はEustoma exaltatum(エグザルタタム)由来であり、ゲノム配列は異なっている。そこで本研究では、立枯病菌に強い抵抗性を示すエグザルタタム由来系統の抵抗性遺伝子の染色体座乗領域を、ゲノム解析により明らかにし、2種の立枯病菌に対して抵抗性の判別が可能なDNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • 独自に見出したトルコギキョウ立枯病抵抗性系統と罹病性品種との交雑集団を用いた遺伝解析により、立枯病抵抗性QTLが2座検出される。抵抗性系統と罹病性品種の比較ゲノム解析を行うことにより、QTL領域内の抵抗性遺伝子座乗領域を推定することができ、その近傍に、両系統の違いをアガロースゲル電気泳動で判別可能な3つのDNAマーカーを設計することができる(図1)。3つのDNAマーカーのうち2つ(IDE756、IDE934)は片方のQTL由来、1つ(IDE760)はもう一方のQTL由来のマーカーである。
  • 罹病性品種と抵抗性系統の交雑後代の中から、3つのマーカー遺伝子型が全てエグザルタタム(抵抗性)ホモ型、グランディフロラム(罹病性)ホモ型と判定された個体をそれぞれ選抜し、F. solaniを接種して抵抗性の有無を確認すると、エグザルタタム型はF. solaniに対して強い抵抗性を示すが、グランディフロラム型は罹病性を示す(図2)。
  • F. solaniに抵抗性を示す系統は、F. oxysporumに対しても抵抗性を示す(図3)。
  • 3つのマーカー遺伝子型が全てエグザルタタム(抵抗性)ホモ型と判定された個体は、F. oxysporumに対しても抵抗性を示す(図4)。茨城県、長野県、静岡県、福岡県で採取されたF. oxysporum株に対して抵抗性を示す。
  • 以上から、開発した3つのマーカーで選抜することで、2種のフザリウム属菌による立枯病に対して抵抗性を発揮する個体が得られる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 民間種苗会社、公設試験場、普及指導機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国のトルコギキョウ生産地の20%(約80ha)以上。
  • その他 : 本マーカー(特許)を利用する場合は、農研機構との実施契約が必要である。

具体的データ

図1 立枯病抵抗性を判別するDNAマーカー(IDE756、IDE934およびIDE760)のアガロースゲル電気泳動像,図2 罹病性品種、抵抗性系統ならびにそれらの交雑後代のF. solaniに対する抵抗性検定結果,図3 立枯病菌を接種した罹病性品種(青矢印)と抵抗性系統(赤矢印),図4 罹病性品種、抵抗性系統ならびにそれらの交雑後代のF. oxysporumに対する抵抗性検定結果

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2015~2021年度
  • 研究担当者 : 川勝恭子、小野崎隆、佐藤衛、川部眞登、福田直子、川勝泰二、佐藤憲二郎(長野県野花試)、寺田吉徳(静岡農林技研)、安永智希(福岡農林総試)
  • 発表論文等 : 川勝ら「トルコギキョウ植物を判別する方法、作出する方法、及びトルコギキョウ植物」特許第7527665号(2024年7月26日)