要約
ユリの花被(花弁)は、主に表皮組織と柔組織で構成されている。表皮組織よりも先に細胞死が生じる柔組織では、老化促進に関連するNAC転写因子の発現が先行的に誘導される。
- キーワード : ユリ、花被、老化、NAC転写因子
- 担当 : 野菜花き研究部門・野菜花き育種基盤研究領域・素材開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
花の日持ちは、花き市場において重要な形質である。エチレンが花の老化を誘導する花きでは、エチレン作用阻害剤により花の日持ちを延長することができるが、ユリ等のエチレンの老化への関与が小さい花きでは、有効な花の老化抑制技術がない。特に、ユリは切り花の中でも経済規模が大きく(国内産出額約180億円、2023年)、新たな日持ち延長技術が望まれている。ユリの花被(花弁)は、主に表皮組織と柔組織で構成されているが、その老化のタイミングが一様ではなく、柔組織が表皮組織に先行して老化が進行する。しかし、両組織間における老化進行の違いを制御している因子については十分に分かっていない。そこで本研究では、ユリの花被老化機構の解明を目的とし、花被の表皮および柔組織の老化進行の違いに関わるNAC転写因子の遺伝子発現様式ついて明らかにする。
成果の内容・特徴
- ユリ「シベリア」の花被の柔組織では、開花4日目から細胞が崩壊し始め、開花6日目では崩壊した細胞が頻繁に観察され、開花8日目にはほとんどの細胞が崩壊する(図1)。一方、花被の表皮組織では開花6日目から細胞が崩壊し始め、開花8日目では多くの細胞が崩壊するが、崩壊していない細胞も一定の割合で観察される。
- 核の形態的変化は、動植物細胞の老化過程で観察される現象である。表皮組織では、開花4日目から小塊様構造体の形成といった核の形態変化が認められ、開花6日目から形態が変化した核が頻繁に観察される(図2、開花当日と4日目のデータのみ掲載)。一方、柔組織では、開花2日目から核の形態変化が認められ、開花4日目から形態が変化した核が頻繁に観察される。
- 柔組織の老化過程において、ユリで花被の老化促進に関わることが知られているLhNAPは、開花まもなくして発現が誘導され、その発現誘導のタイミングは表皮組織よりも早い(図3)。開花ステージの後半ではシロイヌナズナで葉の老化促進に関わることが知られているNACの相同遺伝子(LhNAC87)の発現量が柔組織で表皮組織よりも高い。
- これらの結果は、ユリ花被の表皮および柔組織間における老化進行の違いは、老化制御因子である複数のLhNACの発現制御によって生じることを示唆している。
成果の活用面・留意点
- 本研究では、花被のうち花弁に相当する内花被の中心部を解析部位として用いた。表皮組織と柔組織は、鋭利なピンセットを用いて花被から剥離したものである。
- NAC転写因子は、特徴的なアミノ酸配列(NAC領域)をもつ転写因子の総称である。LhNACの発現解析では、モデル植物であるシロイヌナズナにおいて葉の老化制御に関連すること知られている遺伝子と相同性の高い遺伝子についての結果を示している。ただし、LhNAPに関しては、ユリの花被老化を促進することが証明されている。
- 本研究は、花きの日持ち延長技術の開発に資する基礎的な知見となる。
具体的データ

その他