越夏性に優れ高品質な牧草の生産が可能なペレニアルライグラス晩生品種「夏ごしペレ」

要約

ペレニアルライグラス「夏ごしペレ」は、越夏性、収量性に優れ、本州以南の寒冷地(東北地域や中部高標高地帯:年平均気温9~12°C)を対象に、放牧や採草用として利用できる。

  • キーワード:放牧、採草、越夏性、ペレニアルライグラス、寒冷地
  • 担当:東北研・緩傾斜畑作研究領域・生産力増強グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

ペレニアルライグラスは、飼料品質や嗜好性に優れることから家畜の増体促進と酪農での泌乳量増加が期待できることや、初期生育に優れることから追播利用などに適するため、海外では最も利用されている牧草である。しかし、本州以南においては、夏季の高温による枯死や生育停滞によって雑草との競合に負けるなど、短期間にペレニアルライグラスの植被率が低下することがあるために、その利用は限定的である。そこで、越夏性に優れたペレニアルライグラス品種を育成した。これにより、本州以南の寒冷地での放牧の推進と輸入に頼らない高品質自給飼料の生産が可能となる。

成果の内容・特徴

  • 放牧を想定した多回刈り試験の結果、「夏ごしペレ」の3年間の合計収量は、「ヤツユメ」と比べて、全ての試験場で同等以上で、5場所平均で4%多収である。「フレンド」と比べても全ての試験場で「夏ごしペレ」が優れ、平均で9%多収である(図1)。
  • ペレニアルライグラスの栽培限界地域(栃木県那須塩原市)における「夏ごしペレ」の越夏性は、高越夏性品種である「ヤツユメ」より優れる(図2)。
  • 東北地域などの栽培適地での越夏性は「ヤツユメ」より優れ、盛夏期直後収量は、「ヤツユメ」と比べて12%多収で、越夏後収量も「ヤツユメ」より13%多収である(表1)。夏季の病害罹病程度については、「ヤツユメ」と比べて、冠さび病(Puccinia coronata Corda var. coronata)は同等かやや高く、いもち病(Magnaporthe oryzae B. Couch)は同等かやや低い(表1)。
  • 越冬性は、「ヤツユメ」と同程度で、東北積雪地での越冬に問題はない(表1)。
  • 出穂始日は「ヤツユメ」より4日早く、「ポコロ」と同程度で晩生である(表1)。
  • 採草利用(年3回刈り)での乾物収量は、「ヤツユメ」と同程度である(表1)。
  • 飼料成分のうち可消化養分総量(TDN)は、「ヤツユメ」と同程度である(表1)。
  • 採種性については、「ヤツユメ」より優れ、実規模における採種性は実用上問題ない水準である(表1)。
  • 各地での導入試験の結果、「夏ごしペレ」の越夏性、嗜好性、追播適性などの優秀性が確認されている(表2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:酪農や肉用牛生産の農家・法人、コントラクター等の飼料生産組織。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:本州以南の寒冷地を中心に1,000ha。
  • その他:2022年より民間種苗会社から種子が販売される。採草利用する場合は、耐倒伏性に劣るので、1番草は穂ばらみ期に収穫を行う。

具体的データ

図1 「夏ごしペレ」の3年間合計乾物収量(ヤツユメ比),図2 「夏ごしペレ」の利用1年目の越夏後の様子(2016年9月6日 栃木県那須塩原市),表1 ペレニアルライグラス「夏ごしペレ」の主要特性,表2 各地での導入事例

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)
  • 研究期間:2001~2017年度
  • 研究担当者:藤森雅博、久保田明人、秋山征夫、上山泰史、保倉勝巳(山梨畜酪)、田瀬和浩(山梨畜酪)、藤村洋子(山梨畜酪)、保倉彩(山梨畜酪)、菊嶋敬子(山梨畜酪)、岸田諭俊(山梨畜酪)
  • 発表論文等: