タマネギ品種「クエルゴールド」のりん茎におけるケルセチン配糖体蓄積の経時変化

要約

タマネギを春まき栽培すると、りん茎における単位乾物重あたりのケルセチン配糖体含量は6月半ば以降に増加する。球あたりのケルセチン配糖体含量は肥大に伴って増加するため、ケルセチン高含有品種を用いてりん茎重を大きくすることがケルセチン配糖体蓄積の1つとして重要である。

  • キーワード:タマネギ、品種間差、りん茎肥大、クエルゴールド、機能性成分
  • 担当:東北農業研究センター・畑作園芸研究領域・畑作園芸品種グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

タマネギには、フラボノイドの一種であるケルセチン配糖体が含まれ、その配糖体の糖鎖が外れたケルセチンは、加齢に伴い低下する認知機能の維持に役立つ機能性成分として注目されている。「クエルゴールド」等のケルセチン配糖体を多く含む品種(ケルセチン高含有タマネギ)は、国民の健康志向の高まりもあり、高単価販売への利用が期待される。一方で、単位乾物重あたりの含量と球あたりの含量(単位乾物重あたりの含量×りん茎の乾物重)が、生育から収穫までにどのように変動するのか明らかとなっていない。また、未利用部分である葉身にはケルセチン配糖体が含まれるのか不明である。そこで、一般品種とケルセチン高含有品種を用いて、定植から収穫までに経時的に収穫したりん茎や葉身に含まれるケルセチン配糖体含量の特性を見出す。

成果の内容・特徴

  • 経時的に収穫した一般品種の「もみじ3号」とケルセチン高含有品種「クエルゴールド」では、りん茎における単位乾物重あたりのケルセチン配糖体含量は、生育中期の6月半ばから徐々に高くなる(図1、図2(A))。また球あたりのケルセチン配糖体含量は、りん茎肥大に伴って高くなる(図1、図2(B))。葉身にもケルセチン配糖体が蓄積するが、生育期間全体を通じてりん茎に比べて含量は少ない(データ略)。
  • 「クエルゴールド」では、6月半ばから単位乾物重あたりのケルセチン配糖体含量が有意に増加する(図2(A))。それぞれの収穫適期における「クエルゴールド」の球あたりのケルセチン配糖体含量は、「もみじ3号」と比べて約2.8倍高い(図2(B))。
  • 収穫物のりん茎重と単位乾物重あたりのケルセチン配糖体含量の相関はない(図3)。そのため、ケルセチン配糖体含量はりん茎重に依存するわけではないが、球あたりのケルセチン配糖体含量を増加させるには、高含有品種を用いてりん茎重を大きくすることも重要である。

成果の活用面・留意点

  • 本研究成果は、農研機構東北農業研究センター(岩手県盛岡市)で得られたものであり、2018年および2020年の試験でも同様の結果が得られている。
  • 「クエルゴールド」は、一般品種「もみじ3号」と比べて生育中期以降にケルセチン配糖体含量が高くなる。また、りん茎重を大きくすることで、ケルセチン高含有品種である「クエルゴールド」の特性を活かした高単価販売への利用が期待できる。
  • 本成果は、ケルセチン配糖体含量が高い「クエルゴールド」と一般品種「もみじ3号」における蓄積特性である。そのため、ケルセチン配糖体含量は、ケルセチン高含有品種でなければりん茎重を大きくしても増加しにくい可能性があるということを留意する。

具体的データ

図1 経時的に採取したタマネギりん茎(2019年撮影:2月13日播種、4月22日定植),図2 経時的に採取したタマネギりん茎におけるケルセチン配糖体含量の推移(2019年),図3 収穫時のりん茎重と単位乾物重あたりのケルセチン配糖体含量の分布(2018~2020年)

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(経営体プロジェクト)
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:奥聡史、青木和彦、本城正憲、室崇人、塚﨑光
  • 発表論文等:Oku S. et al. (2021) Hort. J. 90:326-333