マメ科作物ラッカセイへの放射性セシウムの移行性はダイズよりも低い

要約

ラッカセイの放射性セシウムの吸収性と体内の移行性はダイズよりも低く、子実への放射性セシウムの蓄積性はラッカセイの方が低い。両作物とも、土壌中の交換性カリ含量を高めることにより、子実への放射性セシウムの蓄積は低減する。

  • キーワード:ラッカセイ、ダイズ、放射性セシウム、吸収、移行、種間差
  • 担当:東北農業研究センター・農業放射線研究センター・早期営農再開グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

土壌から農作物への放射性セシウムの移行は、食品安全の観点から低いことが望ましい。ダイズ等の畑作物は、水稲よりも放射性セシウムが移行しやすいが、マメ科作物における放射性セシウムの移行性の種間差や、放射性セシウムの蓄積と土壌要因との関係については、理解が深まっていない。そこで本研究では、マメ科作物における放射性セシウム蓄積の多様性を明らかにするため、ラッカセイとダイズを供試材料とし、カリレベルが異なる土壌条件において、土壌から子実への放射性セシウムの移行性を比較する。

成果の内容・特徴

  • ポットと現地圃場での試験において、ラッカセイはダイズよりも子実の放射性セシウム濃度が低く(図1)、根からの放射性セシウムの吸収量も低い(データ省略)。
  • ポット試験において、放射性セシウムの根への分配はダイズよりもラッカセイの方が高く、茎葉 (莢を含む) および子実への分配はダイズよりもラッカセイの方が低い(図2)。現地圃場での試験において、放射性セシウムの葉、莢、子実への分配はダイズよりもラッカセイの方が低い(図2)。
  • 両作物とも、土壌中の交換性カリ含量を高めることにより、土壌から子実への放射性セシウム移行は低減する(図3)。無カリ、カリ施用いずれの場合も、放射性セシウムの移行性はダイズよりもラッカセイの方が低い。
  • ラッカセイに含まれる放射性セシウムは、土中の子葉柄や莢よりも、根から主に吸収される(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で用いた品種は、ラッカセイが「郷の香」、ダイズが「タチナガハ」(図1、図2)と「里のほほえみ」(図3)である。
  • 各部位における放射性セシウムの分配係数は「放射性セシウムの分配率/各部位の乾物重(放射性セシウムの分配率=各部位の放射性セシウム含有量/全体の放射性セシウム含有量)」で算出され、各部位の乾物重に対する放射性セシウムの分配程度を表す指標となる(藤村ら、第239回日本作物学会講演会要旨集、35)。
  • 得られた知見は、原発事故による避難指示が解除された地域の営農再開場面等において活用されうる。
  • 両作物とも、土壌中の交換性カリ含量が低いと土壌から子実への放射性セシウムの移行が高まることから、土壌中の交換性カリ含量を適正に維持することが重要である。

具体的データ

図1 ラッカセイとダイズの子実の放射性セシウム濃度,図2 ラッカセイとダイズの放射性セシウムの分配係数,図3 ラッカセイとダイズの放射性セシウムの移行係数 (圃場試験、2019~2020),図4 放射性セシウムの吸収動態

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(営農再開のための放射性物質対策技術の開発:農地への放射性セシウム流入防止技術の開発)、農林水産省(食料生産地域再生のための先端技術展開事業)、文部科学省(科研費15H02438、15K11961)
  • 研究期間:2015~2020年度
  • 研究担当者:久保堅司、丸山隼人(北海道大)、藤本久恵(北海道大)、鈴木政崇(北海道大)、菅あやね(北海道大)、海野佑介(環境科学技術研究所)、信濃卓郎
  • 発表論文等:Kubo K. et al. (2021) Soil Sci. Plant Nutr. 67:707-715 https://doi.org/10.1080/00380768.2021.1988829