可溶性炭水化物含量が高く収量性に優れるオーチャードグラス早生品種「わせじまん」

要約

オーチャードグラス早生品種「わせじまん」は、「はるねみどり」より可溶性炭水化物(WSC)含量が1.8ポイント高く、3年間合計乾物収量も5%多く、黒さび病に対する耐病性に優れる。栽培適地は、北海道と東北地域などの寒地・寒冷地である。

  • キーワード:オーチャードグラス、可溶性炭水化物、収量、耐病性、早生
  • 担当:東北農業研究センター・緩傾斜畑作研究領域・生産力増強グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

北海道と東北の基幹イネ科牧草であるオーチャードグラスは、環境耐性と生産性に優れるが、飼料品質がやや低く、その改良が求められている。
イネ科牧草の可溶性炭水化物(WSC)は、家畜の消化性やサイレージの発酵品質と関連があることが知られている。オーチャードグラスではWSC含量を高めた中生品種「えさじまん」が育成されているが、東北地域で主に利用されている早生品種について、新たにWSC含量を高めた品種を育成し、寒地・寒冷地の自給飼料の品質向上を図る。

成果の内容・特徴

  • 出穂始日は「はるねみどり」と同日で、早晩性は"早生"である(表1)。
  • 3か年合計乾物収量は、北海道および東北地域の平均で、両地域とも「はるねみどり」比105と多収である(表2)。
  • WSC含量は、場所および年間をとおして「はるねみどり」より1.8ポイント高い(表1)。東北地域で供試した5品種の中でWSC含量が最も高い(図2)。可消化養分総量(TDN)は、「はるねみどり」より1.7ポイント高い(表1)。サイレージ発酵品質ではVスコアが、「はるねみどり」より6.7ポイント高い(表1)。
  • 越冬性は、「はるねみどり」並みである(表1)。耐寒性は、"やや強~強"で「はるねみどり」よりやや優れ、雪腐病に対する耐病性は"強"で、「はるねみどり」と同程度である(表1)。
  • すじ葉枯病および雲形病に対する耐病性は、「はるねみどり」よりやや優れ、黒さび病に対する耐病性は、「はるねみどり」より優れる(表1、図2)。
  • 草丈は、年間をとおして「はるねみどり」より高い(表1)。東北地域での倒伏程度は「はるねみどり」よりやや高い(表1)。
  • アカクローバ混播における乾物収量(イネ科とマメ科合計)は「はるねみどり」よりやや少ない(表1)。アルファルファ混播とシロクローバ混播では多収である(表1)。
  • 放牧を想定した多回刈と採草放牧兼用利用における乾物収量は、「はるねみどり」並みである(表1)。
  • 採種量は、「はるねみどり」よりやや少ない(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 採草を主体に、放牧および採草放牧兼用にも利用できる。
  • 東北地域では倒伏程度がやや高いので、刈遅れしないようにする。
  • 栽培適地は、北海道と東北地域等の寒地・寒冷地(年平均気温12°C以下の地域)である。種子の販売は、2026年開始を予定しており、普及見込み面積5,000ha、年10tの種子を供給予定。

具体的データ

表1 オーチャードグラス「わせじまん」の特性,図1 オーチャードグラス「わせじまん」の可溶性炭水化物含量,表2 オーチャードグラス「わせじまん」の合計乾物収量(上段が北海道、下段が東北),図2 標準品種「はるねみどり」(左)と「わせじまん」(右)の黒さび病罹病程度

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(生産現場強化のための研究開発:収益力向上:栄養収量の高い国産飼料の低コスト生産・利用技術の開発)
  • 研究期間:2004~2019年度
  • 研究担当者:藤森雅博、秋山征夫、久保田明人、上山泰史、山田敏彦、田瀬和浩、眞田康治、田村健一、高山光男(雪印種苗)、谷津英樹(雪印種苗)、横山寛(雪印種苗)
  • 発表論文等:藤森ら「わせじまん」品種登録出願公表第35190号(2021年6月29日)