カドミウム低吸収性の水稲新品種「萌えみのり環1号」、「ちほみのり環1号」
要約
「萌えみのり環1号」、「ちほみのり環1号」は、それぞれ東北地域中部において中生で直播栽培向き多収・良食味品種「萌えみのり」、早生で直播栽培向き多収・良食味品種「ちほみのり」にカドミウム低吸収性を導入した同質遺伝子系統である。
- キーワード : 水稲、新品種、カドミウム低吸収性、多収、良食味
- 担当 : 東北農業研究センター・水田輪作研究領域・水田作物品種グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
我が国ではコメ中のカドミウム濃度を軽減するために客土や用水管理による抑制対策が行われている地域が全国に存在している。2015年に品種登録された「コシヒカリ環1号」はカドミウム低吸収性遺伝子osnramp5-2を保有し、カドミウム吸収性が極めて低いため、土壌中のカドミウム濃度の影響を受けにくい。客土や用水管理による従来の抑制対策に比べ、簡易にコメ中のカドミウム濃度を抑制でき、カドミウム摂取低減に大きく寄与することが期待される。しかし、「コシヒカリ環1号」はカドミウム低吸収性以外の特性が「コシヒカリ」と同様であるため、東北地域では晩生となり、いもち病抵抗性が弱く、栽培地域が大きく限定される。東北地域におけるカドミウム低吸収性品種の適応範囲拡大に向け、東北地域中部でそれぞれ"かなり早"、"中"の熟期である「ちほみのり」、「萌えみのり」に「コシヒカリ環1号」由来のカドミウム低吸収性を導入した同質遺伝子系統を開発する。
成果の内容・特徴
- 「萌えみのり環1号」、「ちほみのり環1号」は、2014年に「コシヒカリ」の突然変異でカドミウム低吸収性を有する「コシヒカリ環1号」に東北研が育成した直播栽培向き多収・良食味品種「萌えみのり」、「ちほみのり」をそれぞれ戻し交配した交配後代から育成したカドミウム低吸収性同質遺伝子系統である。
- 育成地における出穂期および成熟期は「萌えみのり環1号」は「萌えみのり」と同じく"中"に属し、「ちほみのり環1号」は「ちほみのり」と同じく"かなり早"に属する(表1)。稈長、穂長、穂数、玄米外観品質等の主要な品種特性については「萌えみのり」および「ちほみのり」と同程度である(表1)。
- 「萌えみのり環1号」、「ちほみのり環1号」はDNAマーカーによる判定から「コシヒカリ環1号」由来のカドミウム低吸収性遺伝子osnramp5-2を保有し、カドミウム汚染土壌を用いたポット栽培における玄米中のカドミウム濃度は「コシヒカリ環1号」と同程度に低い(図1)。
成果の活用面・留意点
- 「萌えみのり環1号」、「ちほみのり環1号」は東北地域向けのカドミウム低吸収性品種として、コメ中のカドミウム濃度軽減対策に利用されることにより、基準超過米の発生防止および食品由来のカドミウム摂取量の低減が期待される。
- 「萌えみのり環1号」、「ちほみのり環1号」の栽培適地は東北中部以南である。「萌えみのり」、「ちほみのり」が導入されている地域のうち、カドミウム吸収抑制対策が必要な地域で原品種に代えての普及が期待される。
- 「萌えみのり環1号」、「ちほみのり環1号」ともにosnramp5-2によりマンガンの吸収も抑制されるため、特に砂質等の地力の低い圃場ではごま葉枯病の発生に注意を要する。また、成熟期以降は止葉の枯れが早いため、適期刈りを行う。
- 「ちほみのり環1号」の耐冷性は不十分であり、冷害の発生しやすい地帯では栽培をさける。
具体的データ
その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業、イノベーション創出強化研究推進事業)
- 研究期間 : 2014～2021年度
- 研究担当者 : 津田直人、太田久稔、横上晴郁、藤村健太郎、福嶌陽、梶亮太、石川覚、安部匡
- 発表論文等 :
- 太田ら「萌えみのり環1号」品種登録出願公表第36283号(2022年9月8日)
- 太田ら「ちほみのり環1号」品種登録出願公表第36284号(2022年9月8日)