要約
子実トウモロコシのアワノメイガ防除において、無人航空機で絹糸抽出期頃に殺虫剤(クロラントラニリプロール水和剤)を農薬登録された薬量で散布した場合、稈上部、稈下部、雌穂、雌穂柄の虫孔数と雌穂柄の折損数を低減し、コンバインによる全刈収量を約7%増収させる。
- キーワード : 子実トウモロコシ、アワノメイガ、殺虫剤、無人航空機、虫害
- 担当 : 東北農業研究センター・水田輪作研究領域・ICT活用技術グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
水田の高度利用による濃厚飼料の増産を図るため、東北地域では飼料用トウモロコシの子実を成熟期に収穫する子実トウモロコシの栽培面積が水田転換畑において増えているが、アワノメイガの幼虫の食害による減収や品質低下が課題となっている。アワノメイガに対する化学的防除の実施時期の目安は絹糸抽出期頃とされるが、その時期の草高は3 mを越えるため、無人航空機による散布が極めて効率的である。無人航空機の高濃度少量散布に対応した「飼料用とうもろこし(子実)」用の殺虫剤として登録農薬(クロラントラニリプロール水和剤)の適用拡大が2023年5月24日になされ、以降、使用可能となった。そこで、無人航空機による絹糸抽出期頃の殺虫剤散布が子実トウモロコシの虫害程度および収量に及ぼす影響について明らかにする。
成果の内容・特徴
- 子実トウモロコシの脱落雌穂(図1A)や雌穂柄の折損(図1B)の原因となるアワノメイガの幼虫による食害(図1C)を防除するために、無人航空機により高濃度少量散布に対応した殺虫剤を空中から散布する(図1D)。
- 岩手県盛岡市で5月上中旬に播種した子実トウモロコシにクロラントラニリプロール水和剤(商品名:プレバソンフロアブル5)を農薬登録された希釈倍数(20倍)と散布液量(1~2L 10a-1)から求めた散布薬量(散布液量/希釈倍数)の最少量に相当する50mL 10a-1で絹糸抽出期頃(絹糸抽出期6日後)に散布した2021年(表1)は、無散布と比較して稈上部、稈下部、雌穂、雌穂柄の虫孔数と稈上部の折損数および雌穂柄の折損率は低減し(表2)、コンバインによる全刈収量は約7%増収する(表3)。
- 散布した薬量について、2021年は50mL 10a-1(16倍希釈、散布量800mL 10a-1)だが、2022年は40 mL 10a-1(20倍希釈、散布量800mL 10a-1)で、2022年は2021年より2割少ない(表1)。2021年と2022年の殺虫剤散布効果の違いの要因の一つは、散布薬量の違いによると推察される。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 子実トウモロコシ生産者。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 東北以南の子実トウモロコシ栽培地域でアワノメイガの被害が発生している地域。
- 子実のみを収穫・利用する子実トウモロコシは、「飼料用とうもろこし(子実)」もしくは「飼料用とうもろこし」に登録のある殺虫剤が使用できる。子実以外も利用するホールクロップやイアコーンなどは「飼料用とうもろこし(子実)」に登録のある殺虫剤は使用できない。詳しくは農林水産省の飼料の安全関係を確認すること。
- 2021年および2022年は適用拡大前のデータであり、実際の農薬使用にあたっては、登録内容をラベルや農薬登録情報提供システムで確認し、使用方法を遵守すること。必要に応じて指導機関の指導を受けること。
- 農薬の空中散布にあたっては、必ず無人航空機による農薬等の空中散布に関する情報を確認すること。とくに散布時期の草高は3 mを超える場合が多いので、目視外での飛行等に留意し、その対策を講じる。
- 本成果は、岩手県盛岡市における結果であり、アワノメイガの発生消長は地域や年次により異なるため、生産者圃場での調査により、地域毎に散布時期などを検討する必要がある。
- 生産現場での散布時期について:本成果では、絹糸抽出期6日後に殺虫剤を散布した。しかし、防除適期は絹糸抽出期であり、散布が遅れると防除効果が低下する。生産現場では栽培面積や1日の散布面積、天候等により散布時期が遅れる可能性があることを考慮して散布計画を立てることが望ましい。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2021~2022年度
- 研究担当者 : 篠遠善哉、森田聡一郎、金井源太、吉田信代、嶝野英子
- 発表論文等 : 篠遠ら(2024)日作紀、93:67-68