多収でコムギ縞萎縮病に強く、めんの色が優れる寒冷地向け軟質小麦新品種「ナンブキラリ」

要約

「ナンブキラリ」はコムギ縞萎縮病に強く、多収の日本めん用軟質小麦である。「ナンブコムギ」と比べて小麦粉の色が同程度に黄色みが強く、明るさは優れる特性を有し、やや低アミロースでめんの外観が優れる。

  • キーワード : 小麦、コムギ縞萎縮病、小麦粉、粉色、製めん適性
  • 担当 : 東北農業研究センター・畑作園芸研究領域・畑作園芸品種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

岩手県を中心に栽培されているパン・中華めん用の「ナンブコムギ」は、小麦粉の色の黄色みが強く、日本めん用への適性も合わせ持ち汎用性があるため手堅い需要がある。しかし、耐雪性には優れているものの、コムギ縞萎縮病に弱く、長稈で倒伏しやすいため、収量が低いことが問題である。そのため、「ナンブコムギ」の日本めん用需要に対する後継品種には生産者からはコムギ縞萎縮病抵抗性および収量性に優れる特性を有し、実需者からは小麦粉の色に黄色みを有することを求められている。そこで、東北地域のコムギ生産性を向上させるためにコムギ縞萎縮病抵抗性と多収性および日本めん用需要で求められる小麦粉の色の黄色みが強くかつ明るい特性を有する日本めん用小麦品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「ナンブキラリ」はF1雑種「盛系C-130b-5-5//東北214号/東北207号/3/盛系C-B3423」を母本とし、「盛系C-B3423」を父本とした人工交配を行い、その後代からコムギ縞萎縮病抵抗性、小麦粉の黄色みの強く色が明るい系統を選抜することにより育成された品種である。
  • 「ナンブコムギ」より成熟期は3日遅く、稈長は16cm短く、耐倒伏性は優れる。整粒収量は「ナンブコムギ」、「ネバリゴシ」より多い(表1)。
  • 「ナンブコムギ」と比較して耐雪性はやや弱、コムギ縞萎縮病抵抗性は強。また、赤さび病抵抗性についてはやや強である(表2)。
  • 製粉歩留は「ナンブコムギ」、「ネバリゴシ」より高く、小麦原粒および小麦粉のタンパク質含有率は「ナンブコムギ」より低く「ネバリゴシ」と同程度である。小麦原粒および小麦粉の灰分含有率は「ナンブコムギ」、「ネバリゴシ」と同程度である。原粒タンパク含有率、原粒灰分含有率とも日本めん用の品質ランク区分の基準値を満たし、「ナンブコムギ」より優れる。「ナンブコムギ」比較して小麦粉の色は明るく黄色みは同程度で優れる(表3)。
  • Wx遺伝子がWx-B1b型のやや低アミロースタイプであるので、特にめんの粘弾性となめらかさが優れる(表3)。ASWと比較してめんの黄色みが強い(図1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 小麦生産者。
  • 普及予定地域・面積:耐雪性から判断し、栽培適地は東北の平坦地(目安として根雪期間80日以下)である。2023年に岩手県の奨励品種に採用され、2023年産で75ha、2025年産で200haを予定している。
  • その他 : 成果の内容・特徴は農研機構東北農業研究センター(岩手県盛岡市)における成績で、出穂期、成熟期の早晩性および耐雪性の区分は寒冷地北部(東北地域)における基準に基づいて判定している。根雪期間が80日を超える地域では殺菌剤や融雪剤を散布する等の雪害軽減策が必要である。

具体的データ

表1 育成地における「ナンブキラリ」の生育および収穫物調査結果,表2 育成地における「ナンブキラリ」の特性検定結果,表3 育成地における「ナンブキラリ」の原粒分析、製粉性試験および60%粉分析,粉色およびWx遺伝子型,図1「ASW」と「ナンブキラリ」の製めん試験外観

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2001~2022年度
  • 研究担当者 : 伊藤裕之、谷口義則、平 将人、中村和弘、池永幸子、中村俊樹、前島秀和(長野県農業試験場)、石川吾郎、池田達哉、伊藤美環子、中丸観子、髙山敏之
  • 発表論文等 :
    • 谷口ら「ナンブキラリ」品種登録第29297号(2022年7月11日)
    • 池永ら(2024) 育種学研究、26:23-30