要約
石灰質肥料の施用は土壌pHを向上させ、その副次的効果としてダイズの立枯性病害を抑制する可能性があり、その結果として増収に寄与する。また、炭カル(CaCO3)の施用はダイズ地上部の生育初期を促すため、苦土炭カル(CaMg(CO3)2)よりも増収する。
- キーワード : ダイズ、水田転換畑、石灰質肥料、炭カル、苦土炭カル
- 担当 : 東北農業研究センター・水田輪作研究領域・水田輪作グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
土壌の酸性矯正には石灰質肥料が一般的に用いられ、土壌pHの向上はダイズ増収に寄与すると考えられている一方で、その検証事例は国内では少ない。石灰質肥料として広く使われている苦土炭カルにはMgが含まれ、近年、交換性Mgの過剰がダイズ低収に関わるという報告がある。よって、苦土炭カルの施用は収量に影響する可能性があり、石灰質肥料の施用および種類が水田転換畑のダイズに及ぼす影響を検証することは喫緊の課題である。しかし、国内における圃場での検証事例は報告されていないため、2年にわたる苦土炭カルと炭カルの比較施肥試験を通じて、石灰質肥料の施用と種類がダイズ収量等に及ぼす効果を検証する。
成果の内容・特徴
- 作付け後の土壌pHは苦土炭カルおよび炭カルの施用で有意に向上し、石灰質肥料間で有意な差は認められない(表1)。交換性Ca濃度も苦土炭カルおよび炭カルの施用で有意に向上し、石灰質肥料間で有意な差が認められる(表1)。交換性Mg濃度は苦土炭カルを施用した場合にのみ有意に向上する(表1)。
- ダイズの地上部乾物重は、炭カル施用により開花期から収穫期まで有意に増加する一方、苦土炭カルでは収穫期しか有意な増加が認められない(図1a)。苦土炭カルの施用ではダイズが20%増収するが、炭カルの施用ではさらに17ポイント向上して37%増収となる(図1b)。
- 黄葉期における立枯れ株の本数は炭カルおよび苦土炭カルの施用で有意に減少し、石灰質肥料間で有意な差は認められない(図2)。
- 以上のように、炭カルは生育初期の地上部の生育を促す効果があり、苦土炭カルに比べてダイズの増収効果が高い。また、石灰質肥料の施用は土壌pHを向上させるため、その副次的効果としてダイズの立枯性病害を抑制する効果が期待される。
成果の活用面・留意点
- 東北研大仙研究拠点内の水田転換畑圃場(灰色低地土、15a)で2019年と2020年に行い、2018年はイネを栽培している。
- 苦土炭カルおよび炭カルの施用でダイズの増収が認められる土壌型および土壌特性については検討していない。また、土壌pH、交換性Ca、および交換性Mgの閾値も検討していない。
- ダイズの供試品種はリュウホウで、基肥(N-P2O5-K2O=3-10-10)は全試験区に100 kg/10aで播種日の前日に施用している。栽植密度は7.4 株/m2で、一株あたり2本立てである。
- 苦土炭カルは259 kg/10a、炭カルは253 kg/10aを、播種日の約40日前に毎年施用している。対照区には石灰を施用していない。
- ダイズの播種日、開花日、および収穫日は、2019年は5/29、7/29、10/10で、2020年は5/27、7/21、9/29で、各日は試験区間で差がない。立枯れ株の調査日は、2019年は9/18、2020年は9/15である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、民間企業等(公益財団法人 タカノ農芸化学研究助成財団)助成金
- 研究期間 : 2019~2023年度
- 研究担当者 : 髙本慧、髙橋智紀、戸上和樹、菱沼亜衣
- 発表論文等 : Takamoto A. et al. (2023) Plant Prod. Sci. 26:259-272