要約
土壌が異なる圃場でタマネギを東北地域で春まき栽培すると、灰色低地土の方がアロフェン質黒ボク土よりも早期にりん茎肥大が始まり、2~7日程度早期に収穫できる。また、灰色低地土で栽培した収穫物は、アロフェン質黒ボク土での収穫物と同等以上のりん茎重になる。
- キーワード : タマネギ、りん茎肥大、土壌特性、地温
- 担当 : 東北農業研究センター・畑作園芸研究領域・畑作園芸品種グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
東北地域では、2月播種、4月定植、7~8月収穫の春まき移植栽培体系が構築され、この栽培技術を用いた端境期生産が普及しつつある。この作型の普及をさらに拡大できれば、高単価の端境期に出荷できるだけでなく、北海道、佐賀、兵庫といった大産地が気象や病害虫などの影響を受けた場合のリスク分散につながる。また、東北地域は水田を利用した稲作が中心であるため、大規模化が可能な露地野菜作物として低地土をはじめとした水田転作畑へのタマネギ導入が有望である。さらにタマネギは、りん茎の大きさが収量に直結することから、りん茎肥大が生産における重要な要素のひとつになっている。タマネギのりん茎肥大は、日長や気温といった環境条件が関係しているが、土壌がタマネギの生育に与える影響については不明である。そこで、同一地理上で同じ気象条件下で土壌が異なる圃場でタマネギを栽培し、経時的な抜き取り調査から生育やりん茎肥大の特性を見出し、水田転作畑の利活用へつなげる。
成果の内容・特徴
- 灰色低地土とアロフェン質黒ボク土をそれぞれ客土した異なる圃場を用いて、同一気象条件下でタマネギ「もみじ3号」を春まき栽培(2月播種、4月定植)すると、灰色低地土の方がアロフェン質黒ボク土よりも早期にりん茎肥大が起こり、7日以上早期に収穫できる(図1、表1)。また、収穫時のりん茎重は、灰色低地土の方が高くなる(表1)。生育期間中の草丈や出葉数の推移には、栽培土壌の違いで大きな違いは見られない(データ略)。
- 灰色低地土とアロフェン質黒ボク土では土壌特性に違いがあり、灰色低地土の方がアロフェン質黒ボク土よりも体積含水率が低く、保水性が低くなる(表2)。保水性の低い灰色低地土は、地面から発生する気化熱の影響を受けにくくなるため、6月の日平均地温が高くなる傾向があり、タマネギの生育やりん茎肥大が促進されると推察される(図2)。
- 複数品種を栽培した2021年の試験では、「もみじ3号」よりも晩生の秋まき品種「ケルたま」および春まき品種「北もみじ2000」、「クエルゴールド」、「さらさらゴールド」を用いた場合でも、灰色低地土で栽培した方がアロフェン質黒ボク土よりも2~7日早く収穫でき、灰色低地土での収穫物は、アロフェン質黒ボク土の収穫物と同等以上のりん茎重を確保できる(表1)。
成果の活用面・留意点
- 本研究成果は、農研機構東北農業研究センター内(岩手県盛岡市;東経:39.75、北緯:141.14)に灰色低地土とアロフェン質黒ボク土をそれぞれ客土した圃場を設計して得られたものであるため、現地圃場とは気象条件や排水性が異なる場合があることに留意する。
- 秋まき栽培や直播による試験は実施していない。また、品種や栽培環境によっては、りん茎肥大の時期が異なる場合もあることに留意する。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2020~2021年度
- 研究担当者 : 奥聡史、山本岳彦、室崇人、塚﨑光
- 発表論文等 : 奥ら(2024)園芸学研究、23(2):1-8